新美保鎮守府サイト


第1部本編:11話〜20話


■更新■2022年02月13日


第11話(改2.3)<心配>



(何事も当たって砕けろだ)

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マイ「艦これ」(みほちん)
:第11話(改2.3)<心配>
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「ここの指令室は24時間は動いていないんだな」
私の問い掛けに祥高さんは答えた。

「はい。美保は駆逐艦が主体ですから、まだ索敵や哨戒が主任務です。大規模な戦闘になれば、どうしても舞鶴や佐世保から支援出撃することが多いです」

彼女の言葉に私は腕を組んだ。
「なるほど。まだ鎮守府と言うよりは守備隊みたいなものか」
「はい」

そして彼女は苦笑した。
「それにもし電探に感あれば鎮守府の何処にいても走って対応出来ますから」

「あ、そうか狭いから」
私も笑った。

二人で執務室に戻ると鳳翔さんが来た。
「司令、朝の戦闘で、お召し物が汚れて……お着替えも焼けたとか」
「あぁ」

「作業着なら新品の替えが御座いますので、お持ちしましたが」
そう言いながらも申し訳無さそうな表情だ。

「司令官に、このような服を着て頂くのはちょっと……どうでしょう?」

彼女から作業着を受け取った私は早速立ち上がってそれを広げてみた。
「良いな」

サッパリしている。
「ありがとう。新しければ何でも有難いよ」

「かしこまりました」
鳳翔さんもホッとしたようだ。

「山陰地方の夏は高温多湿だからなあ」
私は呟くように言った。

「ただ、ここは浜だから海風が吹く。実は私も詰襟服は苦手でね。むしろ作業着のほうが気持ち良いな」

その言葉を受けるように鳳翔さんが確認した。
「あの……司令、お食事は、どちらでなさいますか?」

時計を見ると、もうお昼になっていた。
「もう、そんな時間か」
(朝から、いろんなことがあり過ぎだ)

私は聞いた。
「ここにも食堂、あるよね? 隊員が食べる場所」

「御座いますけど……あの」
鳳翔さんは心配そうな顔をした。

「一般兵の施設ですが、よろしいですか?」

私は軽く応える。
「構わないよ。司令と言えども引きこもっていては指揮もし辛い。それに皆(艦娘)の顔も見たいからな」

これは私の経験からも、そうしたいのだ。

「お言葉ですが……」
鳳翔さんは言い難そうだった。

すると祥高さんが説明するように続けた。
「艦娘だけの鎮守府ですから司令と艦娘が、お互い直ぐに馴染めるか心配なのだと思います」

「ふーん」
私は深く椅子に、もたれ掛かって後頭部に手を廻した。

 艦娘の人格部分は普通の少女だ。男性の帝国軍人とは、あまり接点が無い。
(それに艦娘に直ぐ馴染むのは私の性格からも難しいだろう)

「でもなあ」
呟いた私は彼女たちを見た。

「今後、戦闘していく上で彼女たちと一蓮托生(いちれんたくしょう)になるんだ。綺麗ごとだけでは済まされないだろう?」

「……」
二人とも無言。

 改めて気付いたが、この二人は口数が少なく大人しいところも似ていた。

私は表情を緩めて彼女たちに言った。
「敵も、今朝みたいに急に攻撃してくることもあるだろう?」

「はい」
返事をしたのは祥高さん。

私は窓の外を振り返った。そこには蒼い美保湾が広がっている。
「食堂で食べるよ」
『……』

「問題があるなら前もって皆に伝えておいてくれ。最初から外したい子は、それでも構わない」

「はい。では仰る通りに致します」
鳳翔さんは、お辞儀をすると退室した。

(彼女の場合は敬礼でなくても、しっくりくるな)
そんな取り留めの無いことを思った。

 しかしこの先、果たしてどうなるのか? ちょっと不安だ。
だが、ここは私の地元。何事も当たって砕けろだ。

それに美保は新設の鎮守府だ。まだ小さいから、ほとんどの艦娘たちは他所(よそ)から赴任しているのだろう。

そんな彼女たちに対抗しうる唯一の利点が、私は地元出身だということ。

(ま……それだけ)
私は苦笑した。

「しかし、こんな形で故郷に戻るとは」
呟いた私に窓から入る海風が心地好い。

(やっぱり海は良い)
それは、この不安を一緒に拭い去ってくれるようだった。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第11話(改2.3)<心配>
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・ハメ,22:31 2021/05/05 (加筆改訂)再度 23:08 2021/05/05
・暁 ,22:42 2021/05/05 (加筆改訂)
・tinami,22:42 2021/05/05 (加筆改訂)
・pixiv,22:45 2021/05/05 (加筆改訂)
・サイト:18:54 2022/01/09


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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第12話(改2.7)<傷んだ制服とつむじ風>


「おーい、電報だよ!」

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マイ「艦これ」(みほちん)
:第12話(改2.7)<傷んだ制服とつむじ風>
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「じゃ、ちょっと着替えるから失礼するよ」
「はい」
二人に伝えた私は作業服と自分の鞄を抱え、控え室へと続く扉を開けた。

 室内には鍵の掛かる棚に作業机、衣紋(えもん)掛けもあった。
(まるで学校の準備室を思わせる風情だな)

何となく江田島にある兵学校を連想しながら私は窓を開けた。美保湾の潮風が入ってきた。

「ほう、ここからも大山(だいせん)が良く見えるな」
思わず窓枠に手を当てて見つめる。

そういえば舞鶴や呉は山と海が入り組んでいる。鎮守府の立地として守備は容易(たやす)いが眺望は微妙なのだ。

 だが美保は陸軍や空軍の滑走路があるくらいに日本海側には珍しく平坦地が広がり見晴らしも良い。

もちろん防衛と言う観点からは一考の余地は有るが。
(個人的な是非は問うまい。それに強いて言えば美保は島根半島がある)

 私は北側の山並みを振り返る。あの半島のおかげで、この地は太古より外敵から守られたのだ。

たとえば、この鎮守府へ一斉に攻撃を仕掛ける為には美保湾へ回り込む必要がある。だが半島の頂、高尾山には空軍の電探基地もあって日本海へ睨みを利かせているのだ。

 私は改めて半島の反対側へ向き直る。美保湾は高い山の影を逆さまに映し込んでいた。
「あの大山(だいせん)を日本海から見れば艦娘たちにも良い目印だな」

この眺望の良さは鎮守府に有利かも。そんな想いも湧く。

「さて」
窓から離れた私は汚れた制服を脱いで衣紋掛けに吊した。

驚いたことに午前の戦闘で私の制服は思った以上にボロボロ。山城さんのように、あちこち穴が開いていた。
「良くかすり傷で済んだな……せっかく軍から下賜されたばかりなのに申し訳ない」

 私は鳳翔さんが持ってきてくれた作業着に着替えた。やはり新しい服は気持ち良い。窓から入る海風の爽やかさが引き立つ。

こんな作業着を着るのも久しぶりだ。
(何十年振りかな?)

 学生の頃は機関室の整備実習で作業することもあった。でも実際に配属されて艦船に乗る頃には艦橋周辺に居ることが多かった。
(作戦指揮をするより現場に居た方が気楽かもな)

 着替えて執務室へ戻ると、まだ待機していた鳳翔さんが私を見て言った。
「司令、脱いだ制服は、まとめて出して頂ければ後で洗濯しておきます」

「気持ちは有り難いけどなぁ」
そう言いながら私は制服の状態を思い出した。

「実は、もうボロボロでね……あれは処分して新しい制服を頼んだほうが良いんじゃないかな?」

「……」
私の言葉に鳳翔さんは、ちょっと苦笑して祥高さんを見た。

秘書艦は静かに口を開いた。
「そうですね。でも僅かとはいえ司令と戦場を共にした制服です。処分されるとしても敬意を持って、お洗濯は、されたほうが宜しいかと存じます」

「あ、そうか」
思わず苦笑した。なぜか彼女の言葉は重い。

「では、宜しいですか?」
その言葉に私は頷いた。

 祥高さんは鳳翔さんに目配せをする。彼女も「失礼します」と会釈をして控え室に入ると衣紋掛けから制服を外して丁寧に抱えて出てきた。

改めて見る制服は酷く汚れていた。彼女に抱えさせるのは申し訳ない気持ちになった。
「済まないね、汚くて」

だが鳳翔さんは微笑んだ。
「いえ、この制服も戦士です。艦娘たちと同じですから誇らしいですわ」

「……」
その言葉に顔が火照る思いだった。艦娘たちは意外に、しっかりしている。規模が小さいからと甘く見てはいけない。

「では失礼します」
鳳翔さんは軽く礼をして退出した。

 少し気恥ずかしくなった私は取り繕うように祥高さんに言った。
「新しい制服って軍からホイホイ支給されたかな?」

「ホイホイ?」
彼女は怪訝そうな顔をした。

「あ」
私は察した。

「すんなりと……って言う意味だよ」
「それなら、分かります」
変な言葉を使うものではない。

 私はデスクの引き出しを確認しながら言った。
「あの制服だって今回辞令を受けて貰っただけだから、2着目があるのかどうかよく分からないけど」

「……」
聞いているのだろうけど彼女は自分のデスクで黙って書類の整理をしている。

 私は頬杖をつきながら言った。
「軍の支給品って基本的には期間空けないと、くれないよな」

そのとき祥高さんは「そうですね」と言った。
「この戦時下ですから軍備品とはいえ配給になると思われます」

(ああ一応、私の話は聞いているんだな)
ホッとした。彼女には中央の役人の雰囲気がある。

「やれやれ、軍服ならともかく司令官の正装を着任早々、敵にグチャグチャにされたのも私くらいだろうなあ」
頭をかいた。

「でも」
彼女は、こちらを見て口を開く。

「やはり、それは誇らしいことです」
私はまた慌てた。この祥高は本当に単なる艦娘なのだろうか?

(発想が普通の艦娘とは違うんだよな)
やはり指揮官代理を務めると意識が違ってくるのだろうか?

 そこで私は彼女に合わせるように言い直した。
「戦闘に巻き込まれたから仕方ないとはいえ詰め襟も面倒だ。しばらく作業服で執務するかな?」

すると彼女は微笑んで言った。
「まるで、どこかの独裁国家の指導者みたいですよ」

「それもそうだ」
私も笑った。少し場が和んだ。冗談も解するんだな、この艦娘は。

 私は秘書艦『祥高』は普通の艦娘ではないと確信した。

だからこそ疑問が残る。
(こんな辺境になぜ、彼女のような優秀な艦娘が配置されているのか?)

違和感を覚える。やはり左遷? 艦娘なのに、まさか中央の権力闘争にでも巻き込まれたか?

そんな思いから、つい口から出た言葉。
「お偉いさんの考えることは分からん」
「はい?」
「いや、独り言だ」
私は苦笑する。どうも独り言が多い。

不思議そうな表情の彼女に私は言った。
「偉いと言えば、こんな辺境には中央からの役人連中は滅多に来ないだろう?」

「そうですね」
普通に答える祥高さん。

ここは艦娘だけの実験部隊のような規模だが鎮守府を名乗っている。
「こんな小さな鎮守府は初めてだよ」

すると、その言葉に呼応して彼女も口を開いた。
「それについては以前から海軍内部でも異論があると聞いています」

「あぁ、君も知っていたか」
提督代理を勤めれば、そういう噂も耳に入るのだろう。

 軍部でも未だに艦娘を理解しない連中を中心に『美保無用論』を唱える者が多い。だから、こんなところに着任命令が出たら普通の人間なら左遷か懲罰人事だと勘違いするだろう。

(私には舞鶴の一件もある)
だから、やはり艦娘に特化した意図を含んだ命令だと思う。

 そんなやり取りの合間に時おり祥高さんは内線電話を受ける。その際、頻繁に『大淀』とか『夕張』という艦娘の名前が出た。

会話の断片から察すると、着任した私の為に美保鎮守府に関する資料を集めてくれているようだ。

電話が落ち着くと彼女は言った。
「司令、申し訳ありません。美保について資料を集めているのですが担当艦が非番で少々手間取っています」

私は穏やかに返した。
「いや、別に良いよ。そんなに慌てなくても最初は口頭でも」

「はい」
改めて祥高さん、仕事が速く生真面目だ。艦娘も、いろいろだが彼女は司令部に最適だろう。

 ただ今は正直、報告書よりもフロに入りたい。戦闘で全身ホコリまみれだ。

とはいえ、まだ真っ昼間だ。艦娘たちの手前、入浴は気が引ける。それにこの鎮守府、艦娘だらけで男性用の浴室があるのか? 
(もし無いのなら早々に市内の何処か銭湯にでも行きたいな)

いろいろ考え、とりあえず顔だけでも洗うことにする。
(控え室には小さな洗面台があったはず)

「ちょっと失礼」
相変わらずデスクにかじり付くようにして内線をかけている祥高さんに軽く声をかけた私は席を立った。

 執務室隣の控え室は、最近あまり使われてないようだ。何となく掃除したくなる。

 それでも洗面台のタオルを見た私はホッとした。小さな石鹸と、かみそりまで準備してあった。
(これは助かる。やっぱり、あの鳳翔さんが準備したのだろうか)

私は早速、手や腕を洗って洗顔をした。タオルで顔を拭くと真っ黒になった。

「ほぁ」
そう言いながら鏡を見る。サッパリした自分の顔があった。

 執務室に戻ると書類に目を通していた祥高さんが顔を上げた。

開いた窓からは、海風が通り抜けた。
「食堂へ行かれますか?」
「そうだね」

書類を机に置いた彼女が立ち上がろうとしたとき、いきなり執務室の扉が大きく開いた。
「おーい、電報だよー!」

ウサギのような髪飾りをつけた艦娘が勢いよく飛び込んできた。私は唖然とした。
(これも艦娘なのか?)




やたら露出している服だ。これまで、いろんな艦娘を見てきたが、こんな子は初めてだ。目のやり場に困った。

 祥高さんが何か言いかけるとウサギ少女は私に気づいて「あっ」と言った。
「あなたが新しい提督ね、よろしくぅ」

ウサギ少女は少しオーバーではあるが平然とした表情のまま、こちらに向かって敬礼をした。

 改めて気付いたが彼女の足元には子犬のようなような連装砲がチョロチョロと3基ほど走り回っていた。
「そうそう、これこれ」

そして私や祥高さんに向かって「ホイ」と言って電報を投げ渡した。
「じゃあね。もう、おっ昼だよぉ」

彼女は90度ターンをすると執務室の扉から、つむじ風のように廊下へと走り去って行った。

「……」
私たちは呆気(あっけ)に取られていた。美保湾の海風どころの比ではない。まるで竜巻だ。

祥高さんは電報を確認しながら詫びた。
「失礼しました司令官。悪気は無いんですが、あの子が海軍で一番足の速い駆逐艦『島風』です」

それは聞いたことがある。
「まるで競争の選手だな」

私は笑った。こんな小さな鎮守府でも、いろんな艦娘が居るようだ。

「美保鎮守府か」
不安もあったけど艦娘たちを見ているうちに少し楽しみに思う気持ちも出てきた。

「住めば都かな」


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第12話(改2.7)<傷んだ制服とつむじ風>
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

・ハーメルン,(改訂2.7):20:53 2021/05/08
・暁 ,(改訂2.7):21:00 2021/05/08
・tinami,(改訂2.7):21:02 2021/05/08
・pixiv,(改訂2.7):21:06 2021/05/08
・サイト:(PCとスマホ)
(改訂2.7)18:23 2022/02/13

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。  



第13話(改2.2)<食堂で挨拶>



「……あれは悪い子じゃないよな」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第13話(改2.2)<食堂で挨拶>
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「島風か」
私は確認するように呟いた。

海軍に居て艦娘に関わる者であれば彼女の名前を知らない者は居ないだろう。とにかく脚が速いことが、いつも強調される。

(だが性格的に気が強いとか自信過剰気味だとか芳しくない噂が漏れ聞こえるのも確かだ)

そんな彼女は同じ艦娘の中でも敢えて他と交わろうとしないで独自路線を行くとも聞く。

だから他の艦娘たちからの評判も芳(かんば)しくはない。実際、艦娘に理解を示す海軍士官の中でも彼女だけは苦手だと敬遠する者も少なくないのだ。

祥高さんは言った。
「驚かれましたか?」

「そうだね。私も間近で接するのは今回が初めてだよ」
正直、私自身『曰くつき』な艦娘の出現に戸惑っていた。

ところが今、一瞬彼女と接して感じたことも、あった。

(意外に彼女とは上手くやっていけるのではないか?)
これは直感だ。

私は秘書艦に言った。
「好き嫌いが激しい……それだけ素直な性格、つまり裏表がないのだろう」

「……」
祥高さんは無言だったが私は続ける。

「それに彼女だって私の第一印象が悪ければ(嫌われたのなら)電報だけ置いて無言で立ち去っていただろう。だが彼女は私の顔を見てキチンと説明をしてくれた」

『あなたが新しい提督ね、よろしくぅ』
彼女の台詞が頭の中に響いた。

「島風……あれは悪い子じゃないよな」
総括するように私は言った。

すると祥高さんは意外にも微笑んだ。
「はい」

なるほど彼女も私の気持ちは察してくれたようだった。

私は改めて秘書艦に聞いた。
「それより電報の内容は?」

「はい」
電報は2通あった。

一つは海軍省からだった。彼女は概要を読み上げた。
「こたび貴殿が受けた敵の攻撃内容について詳しく聞きたい。従い今週半ば海軍省軍令部の情報将校を赴かせる。なお呉と神戸鎮守府の作戦参謀も同行予定」
……との由。
 
「さすが本省、情報が早いな」
「はい」
彼女も頷く。

「私が第一報を入れました」
「なるほど」
さすが仕事が早いな。

「しかし着任早々、将校に他の鎮守府の参謀まで来るとは、これはまた面倒だな」
「……」
これに彼女の反応は無かった。

「もう一通は?」
「これは司令への親展です」
「……あぁ」
私は彼女から電報を受け取ると直ぐに開いた。

それは近年新設された神戸鎮守府にいる海軍兵学校時代の同期からだった。彼は私より先に提督になり既に戦果をガンガン上げている。

電報の内容は簡単だった。

『今度うちの鎮守府から部下が行くから宜しく頼む』
……とだけ。

そうか、今週視察に来るという神戸の人間は彼の部下になるのか。

「相変わらずアッサリ・スッキリな奴だな」
私は呟いた。まあ、そこが良いんだが。

「あれ?」
文面を閉じようとして追伸に気付いた。

『君も着任早々大変だろう。何か困ったことがあれば、いつでも手助するよ』
同期の桜とは、よく言ったものだ。実に有り難い。

(早速、返事を書こう)
私は祥高さんに秘書艦として初仕事を頼むことにした。

「祥高さん、神戸に電報を頼む」
彼女は「はい」と応えながらメモ帳の準備をした。

「どうぞ」
「……」
私は少し考えてから口頭で伝えた。

「着任早々、敵に遭遇し制服が痛んだ。海軍の制服あれば頼む」
……と。

復唱した彼女に私は軽く頷いた。
「後で出しておいてくれ」
「了解しました」

(これで制服が調達できれば嬉しいが)
私は少しだけホッとした。

支給された制服を初日でボロボロにしたというのは、こちらに落ち度は無かったとしても体裁が悪い。ましてや、この戦時下では制服も貴重品だ。ダメもとで頼んでみたのだ。

 ラッパの音とともに鎮守府内が、ざわつき始めた。
「もう昼か」
「はい」

窓から見ると、どこからともなく女学生の如き艦娘たちがゾロゾロと出てきた。
ドアをノックして鳳翔さんが昼食の準備ができたと知らせてくれた。

私は立ち上がった。その姿を見た祥高さんが言う。
「参りましょうか」
「ああ」

 祥高さんと私は執務室を出た。
少し前を行く鳳翔さんを先頭に私たちはさほど広く無い廊下を歩き始めた。

廊下や階段には、いままで何処に潜んでいたんだと思わせるくらい、たくさんの艦娘が居た。
さほど長くない廊下や階段なのに軒並み艦娘たちと擦れ違う。その都度、会釈や敬礼を受け私は手を上げ返していく。

たくさんの視線を感じた。ムリも無い。新しい『司令官』が作業服を着たまま食堂に向かっているのだから。

ひょっとして司令官というより『何処の誰だ?』と疑われているかも。

(祥高さんたちが居なかったら艦娘たちから袋叩きだったかな?)
私は苦笑した。

歩きながら秘書艦が聞いてきた。
「司令、挨拶はされますか?」

「あぁ食堂でね……堅苦しいのは趣味じゃないけど。簡単に一言くらいは言おうか?」
「了解です」

 食堂に入ると、やはり最初、ちょっとした緊張感が走った。艦娘たちは次々に直立した。

そのとき……

「あれ?」
思わず声が出た。

私たちが食堂に入ると同時に逃げるように出ていった黒髪の艦娘が居たのだ。声を出してしまったのは私は何処かで彼女を見たような気がしたからだ。
 
「うむ……」
気になった。だが今は、それどころではない。
私にとって美保の艦娘たちとの初顔合わせ、初陣みたいなものだ。

 私たちが食堂を進んでいくと何人かの艦娘が食事を中断して敬礼をした。私は手を上げて軽く制した。

祥高さんが食堂の中央付近で立ち止まるとサッと周りを見回してから言った。
「各自そのままで結構です。新しく着任された司令官より皆さんに一言、ご挨拶です」

鳳翔さんに促され私は食堂の窓際にある少し高い演台のような雛壇に上がった。さっきの島風が私を指差して言った。

「あ、新しい提督だ」
……それは気にしない。

私は軽く、その場にいる艦娘たちを見渡してから挨拶を始める。
「えーっと。ここ美保鎮守府に新しく司令として本日付で着任した。名前は鎮守府と同じ『美保』です」

食堂は静まり返る。少し緊張する。
「海から攻めてくる敵からこの国土、故郷を守るため皆さんと一緒に粉骨砕身、最善を尽くす所存です」

「硬ぁ」
……という声。島風だ。それと共にクスクス笑いがチラホラ。

私は、無視して続けた。
「堅苦しいことは苦手だ。各自、自分の持ち場で最善を尽くして欲しい……以上だ」

パチパチ……と若干、気の抜けた拍手が、わき上がった。

(相変わらずだな)
いままで経験したから分かる。艦娘たちの反応は、この程度だ。

それに女性、いや艦娘だけの鎮守府となると、やはり普通の海軍とは雰囲気が違う。

(まぁ『郷に入っては郷に従え』だ)
私は腹を決めた。

それにしても飛び出していった黒髪の艦娘が気になる。
(……誰だっけ?)


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第13話(改2.2)<食堂で挨拶>
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・ハメ,初稿:2015年  08月頃 ※初稿は14話だった (改訂2.5):0:22 2019/01/31
・暁 ,[公]2017年 02月19日 (改2.5)0:35 2019/01/31 閲覧数499/509
・tinami,No.854122 初稿:16/06/19 改2.5 0:29 2019/01/31 
・pixiv,初稿:2015年7月2日 改2.5  0:35 2019/01/31
・サイト (PCとスマホ)10:00 2018/03/17

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第14話(改2.4)<司令の思い出と艦娘たち>



「ねぇブラックって何ぃ?」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第14話(改2.4)<司令の思い出と艦娘たち>

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 私は食堂に集っていた艦娘たちの前で話し終えた。
壇を降りた私に続いて、脇に控えていた祥高さんが大きな声で全体に向けて指示を出した。
「司令の挨拶は以上です。各自、解散してください」

『はい』
彼女に合わせて食堂の艦娘たちも敬礼をした。
それから食堂は再びガヤガヤとした賑わいを取り戻した。

(やれやれ)
別に大したことは話していないが、ようやく肩の荷が下りた思いだった。

「司令、こちらへどうぞ」
祥高さんに声を掛けられた。

「あぁ」
私はハッとしたように振り返る。窓際の机に向かうと白い布がかけられたテーブルが準備されていた。

(少し面映ゆい心地だな)
だが、そんな些細な待遇を通してでも『鎮守府の指揮官』という自分の位置を改めて自覚するのだった。

私たちが座ると直ぐに鳳翔さんが来て軽く会釈をした。
「お疲れ様でした。直ぐに今、お持ちしますね」

厨房へ戻っていく彼女を見た秘書艦も何かを思い出したように立ち上がった。
「私も少し手伝って参ります」

「あ……そうか」
制帽を取りながら私は答えた。軽く敬礼をした祥高さんは、そのまま厨房へと向かう。

「彼女もよく働くなぁ」
思わず呟く。決して下っ端でもないのに、あそこまでテキパキと働く艦娘も珍しい。

 改めて見ると鳳翔さんも厨房から出たり入ったりして忙しそうに動き回っている。それでいて基本的な所作に無駄が無い。

(さすが軽空母)
……もちろん軽空母も千差万別だが。

 彼女を補佐するように駆逐艦娘たちも手伝っている。ちょこまかした動きが可愛らしい。そこに祥高さんも合流する。こういった作業には慣れているのだろう。鳳翔さんたちと違和感無く連携している。

 改めて見渡すと、この食堂は長机が順序良く並んている。そこに一見、女学生のような可愛らしい艦娘たちが並んで食事をしているのだ。そんな様子は誰が見ても学食(がくしょく)だ。

実際、食堂内は賑やかな雰囲気だ。つい、ここは軍隊だという現実を忘れてしまいそうになる。

(だがここは鎮守府、今は戦時下だ)
私は自分を現実に引き戻した。

 この子たちは皆、艦娘という名の兵士だ。今日、隣に座っている友が明日には戻らないかも知れない。そんな独特の緊張感が全体に薄っすらと漂っている。事実、軍服のような服装の子もいるし一部の艤装を装着したまま食事をしている子達もいる。

 そんな彼女たちを前にして指揮官である私が良心の呵責を感じないと言えばウソになる。

(だがこの体制下で私が何をもがいて何かを変えられるのだろうか?) 
腕を組んで私は過去を思い出す。自分自身、軍隊生活の中で『私は軍人向きの性格ではないな』と何度も思ったものだ。

「ねぇ、司令さん?」
いきなり声を掛けられた。

「あ?」
見るとウサギ……じゃない。

「えっと、島風か」
絞り出すように応えた。

 彼女は印象的な衣装だ。制服と言うには余りにも違和感がある。辛うじてセーラー服っぽいデザインながら肩や腰周りが過度に露出している。
そして大きなウサギ耳と青地に黄金色のラインとボタン……それは彼女自身の特殊性をいやが上にも印象付けていた。

(正直この子の出で立ち(服装)は正視できないな)
私は顔が火照ってきたような感覚になり、つい目を反らした。

 そんな私の反応を見透かしたように彼女はワザと私の視界に自分の顔が入るように移動して悪戯っぽく笑った。その黄色っぽくて半分、鼻にかかった長い前髪と、その間から覗く透き通るような瞳がこちらを見詰めている。

「うふっ、覚えていたんだ」
そう言いながら島風は臆すること無く私の向かいに座る。同時に椅子が『ギッ』と変わった音を立てた。すると周りの艦娘たちもビクッとしたように反応している。

「ねぇ、何? ボーッとしているの」
「昔のことを思い出していたのさ」
「へぇ、どんな?」
興味津々な大きな瞳。そんな彼女は腕に連装砲を抱っこしていた。まるで愛玩動物だ。

「えっと……兵学校に入って」
正直に話しても良いのか躊躇(ちゅうちょ)した。そこで連装砲までが、こちらを見上げているのに気付いた。

その瞳を見ると急に、この子たちには何を語っても大丈夫な気がした。
(その理由は後に悟ることになるのだが)

「私が……軍隊に嫌気が差して途中で退学しようと思った事があるんだ」
「へえ」
首を傾げる島風。まだ人形のような表情だった。

彼女は連装砲を撫でながら言う。
「そこではサァ。皆が、そう思うの?」
「いや、そんなこと考えてる奴は少ない」

島風は机に空いた方の肘をついて口に手を当てていた。私は続ける。

「まぁ、仮に居たとしても大っぴらに公言できるもンじゃない」
思わず砕けた口調になってしまった。

「ふぅん」
彼女も少し興味が出たのか、さっきまでとは目の色が少し変わった。なぜかホッとした。

私は改めて自分を正当化するように言った。
「でも二年とか三年生とかナ、進級すりゃ幾らか落第したり、中には脱走して強制退学する者も出るんだ」

「それは興味ありますね!」
(うわっ、ビックリした)
……もちろん声には出さない。立場がある。

それでも驚いたことを悟られないように、ゆっくり振り返ると青い髪の艦娘が立っていた。
「あの私、重巡の青葉と申しますぅ……お席、宜しいでしょうか?」

(やや長身で島風よりも骨太な印象だな)
そう思いながら私は応えた。
「あぁ、構わんよ」

「はい、では……」
そう言いながら彼女はメモを片手に島風の横に座った。

 第一印象の通り青葉の体つき全体は大柄だ。それもまた重巡たる所以(ゆえん)だろう。フワッとした髪の毛を後ろで結わえている。それは言動の通り彼女の快活さを象徴しているようだ。
「どうぞ、続きを」

私の前に二人の艦娘たち。突然、形成が逆転したような印象を受けた。
私は渋る。
「何だか話し難くなったな」

「あ、そうですよね」
と、彼女は意外にもメモ帳を閉じて微笑んだ。

「急に核心的なことは話し辛いでしょうから……もちろんオフレコにします」
そう言いながら青葉は島風を見た。

「うん、島風も聞きたいな!」
一緒に連装砲も頷いていた。

私は頭に手をやった。
「やれやれ。えっと……学校の話か」

何だろうな、この状況は。
「まぁ教官たちも、そんな停滞した学校の雰囲気は薄々感じていたようだ。だから高学年になると長い休暇が取り易くなった」

『へえ』
二人の艦娘もまた同時に頷く。

私は窓の外を見た。
「悶々としながら私は、ある夏休みに、ここ……故郷の境港に帰ったんだ」

「故郷……」
新しい事実に手帳を開きかけた青葉さんはグッと堪えていた。

それを尻目に私は続けた。
「突然、帰省した私を見た両親だったけど。ま、何となく私の葛藤は悟ったようだ」

「葛藤?」
島風は確認するように相づちを入れた。

「ご両親……」
これは青葉さんの復唱。自分の頭に新しい事実を記憶しているのだろう。

私は改めて二人を正面から見直した。どちらも真剣な表情だな。

(意外に話し易くなってきたか)
そう感じながら続けた。

「別に両親も何も言わなかったよ。結局、私は一週間ほど地元でブラブラしていたかな?」
「ここで……ですか?」
青葉さんが聞く。

「ああ。だが全てが停滞するこの時代だ。地元に戻っても何もないし。解決策にならないから結局、時間を浪費して終わりだ」
『……』
二人とも互いに目を見合わせて肩をすくめた。何か期待していたのか?

私は再び美保湾を見る。
「両親は最後まで何も言わなかったが、それは正直、有難かったな」

ちょっと間が空く。人間の昔話なんて艦娘たちに理解できるのか?
「……結局は自分で解決するしかない。そう考えた私は再び兵学校へ戻った」

「なぁんだ。じゃあ良かったじゃん?」
意外に島風は相づちを入れた。

「まあな」
「それから?」
興味津々といった表情の青葉さんに頷きながら私は続ける。

「再び戻った学校で、ひょんなことから仲良くなったのが山口出身の友人だ。彼の名は『H』としておこうか。割りとハンサムで一見プレイボーイっぽかった」
「プレ……イ?」
不思議そうな島風。彼女の『辞書』には無い単語か?

「まぁカッコイイって感じかナ」
青葉さんが説明する。

私は大きく頷いた。
「話してみると意外に生真面目な奴だったよ。似合わない性格のコンビだったと思うが彼とは、それからも休暇が合えばよく行動を共にしたナ」

「それって姉妹艦みたいな?」
「まぁ、そうだな」
妙に的確な表現をした島風。

メモを書きたくてウズウズしている感じの青葉さんも続ける。
「なるほど、軍隊もいろいろですよねぇ」

「ああ。だが実はもう一人、同じようなことを考えていた奴がいたんだ。彼は『H2』と呼んでおこう」
「『H2』……」
この記号めいた単語に再び手帳を取り出しかけた青葉さん、グッと堪える姿が微笑ましい。

「口数が少ない大人しいタイプだよ。彼とは喧嘩するほどでもなかったが微妙にウマが合わなかった。今、思えば私と似ていたのかもな」
「居る居る、そういうカタチ!」
島風は何度も頷いている。思い当たる節でも、あるのか?

「ンで?」
二本指で唇を挟むような格好をしながら青葉さんが促す。

「それはぁ、どこが合わなかったのでしょうか?」
「彼は……」
私は記憶を手繰った。

「計算づくで動くような感じっていうのかナ。例えば艦娘も単なる兵器と割りきるような奴だ」
『……』
二人とも急に黙った。突然サッと黒い影が場を横切ったような感覚になる。テーブルが少し暗くなったようだ。

「もちろん、そう考えない者もいる……私もそうだから安心しろ」
この言葉に安堵したような二人。

「指揮官も千差万別だ。良心の欠片(かけら)もない奴だって居る。そんな連中が、いわゆる『ブラック鎮守府』を生むんだ」

「しつもーん!」
長いウサギの耳を揺らしながら島風の質問だ。

「ねぇブラックって何?」
これも『辞書』には無い単語か?
気のせいか、周りの艦娘たちも聞耳(ききみみ)を立ててるようだ。 

すると知恵袋みたいに青葉さんが応えた。
「それは地獄みたいな所……ってとこかナ」

呟くように言いながら寂しそうな表情をする。私は『おやっ』と思った。
(彼女も過去に何かあったのだろうか?)

ちょっと返す言葉に窮(きゅう)した。
「ま、軍隊の指揮官なんて精神破綻する位置だ。私だって危ないかもな」
訳の分からない誤魔化しになった。

 彼女たちと、そんなやり取りをしていたら祥高さんが戻ってきた。彼女は『失礼しました』と言いつつ青葉さんの向かい側に着席した。

「司令は、こちらの地方ご出身と伺いましたが」
祥高さんはテーブルに増えた二人の艦娘をチラ見しながらメモ帳を取り出して確認する。

「そうだね」
これは私。

「……」
青葉さんは黙ってモゴモゴと反復するような表情をしている。分かりやすい子だな。

祥高さんはチラチラと島風や青葉さんの顔を見ながら言った。
「では、この辺りの地理や気候風土、町の様子など、ある程度は、ご存知なのでしょうか?」

「最近の様子は分からないが気候風土は経験的に分かっているつもりだ」
私は、ちょっと姿勢を崩して続けた。

「着任前に軍から受けた鎮守府の資料は着任までにザッと目は通したけどね。今朝の砲撃のゴタゴタで全部、灰になったよ」

すると祥高さんは軽く頷いた。
「もう少し、お待ち頂ければ鎮守府の概要をまとめた資料をお渡し出来ます。当地の主要拠点は午後にでも実際に、ご案内致しましょう」

手際が良い。だてに提督代行を経験したわけではないな。

「頼む」
私は頷きながら返した。

「お待たせ……しました」
ちょうど鳳翔さんが駆逐艦娘と一緒に昼食を持ってきた。

彼女は私たちの席に二人も艦娘が増えているのを見て驚いていた。
「あらぁ? 貴女たちの食事までは……」

すると島風と青葉さんが反応する。
「別にぃ」
「はい、お構い無く」

鳳翔さんは微笑んだ。
「うふふ、別に良いわよ。お茶くらいなら持ってきて上げる」

「サンキュ!」
明るい島風。軽く会釈をして鳳翔さんは厨房へ戻る。

私は祥高さんを見ながら手を合わせた。
「では、頂くとしようか」
「はい」

祥高さんも私と同じように手を合わせていた。少し意外な印象だ。やっぱり彼女は艦娘というより人間に近い感じがした。

「……」
すると駆逐艦の寛代が静かに近寄って二人の、お茶を置いてくれた。

「ありがとう」
「……」
(無愛想な艦娘だと思っていたけど意外に気が利くんだな)

でもこの子は、そのままちゃっかりと私の隣に座ってしまった。結局、五人掛けになったテーブル。

「寛代ちゃん……」
直ぐに祥高さんが注意しようとしていた。

「良いよ、一緒に食べよう」
私は笑って制した。

「は?」
祥高さんは私の反応に少し驚いた様子だ。

私は続けた。
「皆で食べるのが楽しいだろう?」

「……」
寛代も静かに笑っていた。

もちろん島風と青葉さんも微笑んだ。
「そうそう、それが一番!」
「……ですよ」

その反応に祥高さんもヤレヤレといった表情になった。
「仕方ありませんね」

実際、駆逐艦クラスならば、あまり気に障ることもない。
どさくさに紛れてメモ帳を取り出した青葉さんは重巡だけど。

 私は改めて食堂の大きな窓から見える昼の美保湾を眺めた。
「この穏やかな海が、ずっと続いて欲しいものだな」

水面(みなも)は陽の光を反射してキラキラと輝いていた。



以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第14話(改2.4)<司令の思い出と艦娘たち>
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第15話(改2.4)<艦娘の強さ>



「私たち艦娘の最大の武器になると思います」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第15話(改2.4)<艦娘の強さ>

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すると黒髪の少女が敬礼しながら声をかけてきた。
「しししし、司令官!」

見るからに慌てン坊そうな小柄な艦娘が来た。雰囲気から駆逐艦娘だろう。
「ふ、吹雪であります! よろしく、お願いします!」




私は彼女の姿を見てオヤッと思った。
「あれ? 君は、どこかで見たことあるね」

私は記憶を手繰った。
「あ、海軍の公報によく出ていたよな?」

「は、はい! ……恥ずかしながら」
彼女は敬礼したまま硬くなった。少し頬が紅潮している。

私は軽く右手を差し出した。
「そんなに緊張しなくて良いよ……ヨロシクな」

一瞬、硬直した吹雪は直ぐにニッコリ笑った。

「あ、シェイクハンドですね?」
透き通るような声で彼女も右手を差し出した。

……驚いた。いきなり横文字か。
「あぁ、そう。握手だ」

(真面目で大人しそうな娘だけど。容貌に似合わず洒落たことを言うな)

私は何気なく彼女と握手しようとして……
(ひょっとして何万馬力かで挟まれるのだろうか?)

一瞬、冷や汗が出た。実は艦娘と握手をするのは初めだった。

だが次の瞬間、私たちは普通に握手をしていた。何の変哲もない握手。そして吹雪の手は暖かい。彼女も少し、はにかんだように頬を赤らめた。
「済みません。指揮官の方と握手をするのは初めてなんです」

「ああ、私もだ」
そこで彼女は真っ赤になってしまった。

「ヒュー、ヒュー」
(誰だ?) 

私は自席を振り返って苦笑した。
「島風……茶化すな」

さすがに一瞬、怒られるかと思ったのだろう。ウサギ耳の彼女は少し首を縮めていた。場にも緊張が走った。

だが私も気に留めていなかった。それで安堵したのか連装砲を抱っこした彼女は舌を出して笑った。
「えへへ」

青葉さんと秘書艦もホッとしたようだ。場には再び穏やかな空気が戻った。

私は、ふと思った。
(……そうか。艦娘にも喜怒哀楽がある)

それは当たり前のようだが不思議な感覚だった。そう言えば実際、さきのブラック鎮守府では、せっぱ詰まった艦娘たちが反乱を起こしたこともある。

そりゃもう鎮圧や報道管制が大変だった。以後、艦娘に対する扱いには細かい規制が加えられたらしい。
(とはいえ私個人的には影響のない対処命令だったな)

「では、失礼します!」
吹雪は最初よりは少し落ち着いたようだ。彼女は私に向かって軽く、お辞儀をした。私も軽く敬礼を返した。

「あぁ、頑張れ」
「はい!」
次の瞬間、吹雪は右手と右足を同時に出しながら歩き始めていた。

「器用だな」
思わず苦笑しながら呟いてしまった。

 何となく背後の祥高さんも同じ印象を抱いたようだった。私がテーブルに戻ると彼女は言った。
「あの娘は特型駆逐艦ということもあって一時期、普通の新聞社からも取材されて一躍、時の人になったんですよ」

「なるほど」
そうか、それで見覚えがあったのか。

 その時、横の方から声がした。
「えぇと、取材の続き……、よろしいですか?」

「え?」
振り返ると青葉さんだった。そういえば彼女の声も独特な芯のある響きがある。記者には良いかもな。

メモ帳を片手に青葉さんは、やや上目使いに質問する。
「えっと、新しい鎮守府に着任された第一印象は、いかがですか?」

「そうだね。悪くは無いよ」
お世辞だ。

さらさらとメモを取りながら彼女は続けた。
「あのぉ、既に敵と遭遇されたそうで。何か感じられたことはありますか?」

「うーん」
情報が早いなと思いつつ私は、ちょっと考えた。

「いまだに正体がハッキリしない敵の強さを改めて感じたね」
「なるほどぉ」
彼女はメモを取り続ける。

一呼吸おいて私は付け加えた。
「しかし、そんな敵にも対抗する我が海軍の素晴らしさだ。特に艦娘の火力を頼もしく感じたね」

「ほうほう」
感心しながらメモする青葉さん。

やがて一瞬、ペンを顎(あご)に当てながら海を見つめ「ほう」というため息を漏らすと同時にメモを閉じた。

「貴重なご意見、有り難うございました」
そして軽く微笑んだ彼女の瞳は日本海の光を反射して、意外なほど澄んで見えた。

私はドキッとした。間近で見る彼女の笑顔は普通の、ナンの垣根もない少女そのものだった。
(まるで、すべてを見通すようだ)

そう、普通の記者もそうだが人のことを聞き出そうとする輩は目が曇っている。または視線を合わせないものだが……彼女は違った。

(不思議な感じだな)

青葉さんはスッと立ち上がると一礼をした。
「失礼します。今後も、よろしくお願いします」

そして私たちの前から立ち去っていった。

それを見ながら秘書艦は言った。
「あの娘は情報通で、この鎮守府の広報担当もやっています」
「ああ、なるほど」

ここ美保は百人規模ながら、いろんな艦娘がいるようだ。

 だが、そもそも鎮守府とは一つの町のようなものだ。それが地方の一つの組織に過ぎないものであれ、その組織の形態は国防だけに留まらない。

軍隊は情報や物流など基本的な業務を自己完結出来る多芸さがある。ここも例外ではないのだろう。

そんな私の思いを察知したかのように祥高さんは補足した。
「艦娘は器用な娘、そうでない子、様々です。でも誰でも皆、素敵な個性を持っていますから」

長い『耳』を揺らす島風を見ながら彼女は続けた。
「そういう個性こそ私たち艦娘の最大の武器になると思います」

「そうだね」
私はコーヒーをすすった。

「画一でないよな」
率直な印象を口にした。

ここに居る駆逐艦にしてもウサギ耳の島風に、さっきから黙っている寛代。対照的だ。そんな個性的集団を束ねるのは大変だろう。しかも艦娘は実質的に少女たち。

祥高さんは真面目な顔をして言った。
「不足ながら私も司令着任までは代理で指揮を執っておりました。この鎮守府のため私も精一杯、お支え致す所存です」

「あぁ……」
それは分かっているが妙に固い挨拶だと思った。まるで大臣相手に話すような……ちょっと威圧されるような。

私は少し焦点の合わない状態のまま、ふっと考えた。
(彼女は歴代の指揮官にも先ず、こんな挨拶をしたのだろうか?)

そして思う。
(彼女は本当に艦娘なのだろうか?)

 私が少し引いているのを感じたのか祥高さんは急に微笑んだ。それは青葉さんとは、また違った雰囲気だ。
「済みません。私、よく『押しが強い』って言われるもので……これも鎮守府と艦娘のためだと、ご理解下さい」

それを聞いて私も苦笑した。
「ああ、分かる。だいたい司令部付きの艦娘たちは、そんな感じだ」

「へえ?」
いきなり島風が言う。

私は肩をすくめた。
「むしろ艦娘で、そこまで責任感を持って執務できる方が珍しいだろう」

「恐縮です」
祥高さんはニッコリ笑った。その笑顔に私は少しホッとした。

「うんうん」
島風も大きな耳飾りを揺らしながら頷いている。

「秘書艦は固いから」
その一言で緊張していた場が少し和んだ。

「やれやれ」
呟いた私はイスに座り直した。これじゃ普通の人間だけの鎮守府の方が、むしろ気楽かも知れない。

 ただ私は食堂に入る前に出て行った黒髪の艦娘が、ちょっと気になった。
(あの艦娘も、どこかで見た記憶がボンヤリとある)

誰だっけ……ダメだ、思い出せない。

 私は、ため息をついた。
前任地から持ってくる予定だった資料も焼失してしまった。もはや手がかりは無い。

(まあ、いざとなれば、あの指令室にあった艦娘の顔写真を見ていけば、いずれ分かるだろう)

ただ今は、ちょっとやる気力がない。この大勢の艦娘を前にして既に私自身が混乱しそうだ。

「ナンだか難しい顔?」
島風が覗き込んできた。彼女の屈託の無さは、そよ風のように自然で既に私自身の恥ずかしさをも通り越して居た。

「いや正直もう頭の中がいっぱいで……」
「ふうん」
「まぁ徐々に慣れるか」
私は頭に手をやった。

「そうですね」
祥高さんも微笑んだ。

「……」
寛代だけは黙って私をボンヤリと見つめていた。


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禁止私自轉載、加工 天安門事件
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第15話(改2.4)<艦娘の強さ>
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

・ハメ,  初稿:2015年    
 改2.4(加筆改訂:イラスト有り)1:30 2019/03/07 再度 2:10 2019/03/07
・暁,  初稿:2017年02月 改2.4(加筆改訂)2:12 2019/03/07
・tinami,初稿:2016年06 改2.4(加筆改訂)2:15 2019/03/07
・pixiv,  初稿:2015年7月 改2.4(加筆改訂)2:17 2019/03/07
・PCサイト(スマホ)
     初稿:2018年04月 改2.4 (改訂)7:32 2019/03/26

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。



第16話(改2.4)<巡回(鎮守府内)>



(君は本当に単なる艦娘なのか?)

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第16話(改2.4)<巡回(鎮守府内)>

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 祥高さんは用箋(ようせん)ばさみを片手に報告する。
「昼食が終わりましたら、お昼を挟んで、この基地内のご案内。その後は鎮守府近郊を、ご案内します」

「忙しいね」
島風が口を挟む。

それは無視して私は秘書艦に答えた。
「そうだな……海軍省の役人たちが来るのに指揮官が方向音痴では示しがつかないな」

それを聞いた祥高さんも苦笑した。寛代は相変わらずボーっとしている。ただ彼女の場合は何となく無線を傍受しているようにも見えた。

「そうなの?」
また島風か。私は説明するように言った。

「明日は省の役人や他の鎮守府のお偉いさんたちが来るんだ。案内する私が基地内を知らなければ恥ずかしいだろう?」
「まぁね」
連装砲を抱っこした彼女は応えた。

「ここは狭いからさ。きっと、あっという間だよ」
その口調には、島風自身の足の速さを自慢するような想いも感じられた。

 私たちは席を立った。

 執務室へ戻った私は、隣の控え室で軽く身支度を整えた。
「……まあ、こうなるよな」

改めて壁の鏡で自分を見た私は思わず呟いた。
「司令が作業服で巡回とは、なんとも間抜けな印象だな」

だが制服が無い。

水兵でも女学生でもないのに、この期に及んでセーラー服を着たら? この鎮守府では単なる変態になる。軍人が『仮装好きな変態オジサン』と勘違いされても困る。

 やや意気消沈しながら私は執務室に戻るドアを開けた。自分の机で作業をしていた秘書艦の祥高さんが顔を上げた。

彼女は私の作業服姿を見ても表情ひとつ変えなかった。
「そろそろ参りましょうか?」
「ああ」

幸か不幸か……秘書艦は司令の服装とか表面的なことは、あまり拘(こだわ)らないらしい。

 しかし立ち上がった彼女は改めて私の全身を見て、こう言った。
「司令、作業服の帽子は、ございませんでしたか?」

「えっと、確かあったな……」
実は作業帽があることは知っていた。基本的に私も格好には頓着しない性質(たち)だが、さすがに作業帽は被る気がしなかったのだ。

それを察したのか彼女は、ちらりと外を見て言った。
「山陰の夏は日差しが強いですから外に出る際は帽子を被られた方が宜しいです」

「ああ、そうか」
なるほど心配してくれたのか。秘書艦に念を押されたら仕方がない。私は控え室に戻ると作業帽を被った。

(これで完全に作業員だな)
私は腹を括(くく)った。

「待たせたね」
戻った私を見ても、やはり彼女は表情を変えなかった……強いな。

 彼女は小さめの帳面を手にして説明した。
「ではまず、構内巡回を致しましょう」

「うむ」
私たち二人は階段を降りて本館を出た。すれ違う艦娘たちは一瞬、不思議そうな表情を見せつつも私たちに敬礼をする。私は軽く手を上げながら秘書艦の後に続いた。

 やがて彼女は本館の裏手にある中庭で振り返った。こじんまりしているとはいえ赤レンガの大きな建物は堂々としていた。

祥高さんは言う。
「ここが本館で執務室や食堂があります。また艦娘の宿所は別棟になります」
「なるほど」

説明を聞きながら私は、いろいろ考えた。
(この鎮守府に所属する艦娘たちと私は、この期間どれだけ交流出来るだろうか?)

 絶対的な火力を持つ兵器であると同時に、その名の通り『艦娘』という少女たち。だが外見では普通の人間にしか見えない。おまけに、その性格や挙動は普通の少女と何ら変わらない。艤装を付けてようやく彼女たちが兵士であると分かるくらいだ。

 そこが軍の指揮官としては、やり難いところだ。

 もちろん軍の組織だから『指揮官の命令は絶対』として上から押さえ付けることも可能だ。現に各地で聞く『ブラック鎮守府』という酷い拠点があることも知っている。

 だが深海棲艦という敵が居るためムヤミに押さえ付けて彼女たちの反感を買えば人類の未来が無くなる。そこは海軍省や軍令部も目を光らせていて目に余る拠点には時折『監査』や『指導』も入ると聞く。

 そもそも艦娘とは上から押さえ付けてどうにかなる、と言う種類の兵士ではない。そして彼女達の持つ絶大な火力ゆえ結局、海軍(人類)も渋々頼らざるを得ないのが正直なところだろう。

 それに艦娘たちが現れるのは、なぜか帝国海軍に限定されている。そして人類には、もはや艦娘に頼らず敵に対抗する術(すべ)がないのだ。

 だからある程度、彼女たちの機嫌を取りながら同時に上手く『舵取り』をしなければならない。そういったさじ加減の問題。尽きない悩みだ。

(男性兵士を相手にしている方が気持ち的にもラクだよな)
歩きながらも、私はつくづくそう思った。

その瞬間、祥高さんが振り返った。
「どうかしましたか?」

まずい。ボーっとしていたのがバレたか。私は帽子を軽く持ち上げて誤魔化すように苦笑して言った。
「あ、いや。艦娘だけの部隊って、やっぱりまだ慣れないからなあ」

すると彼女は帳面を傾けながら、軽く頷(うなづ)いた。
「はい、そう思います。着任する指揮官の皆さん、同じように仰いますから」
「ああ、やっぱり」

そうなんだ……と、思いつつも悩んでばかり居られない。現実は目の前にあるんだ。私は軍人であり司令官という重責を拝命したのだから一生懸命応えるべきだ。

 それからボーっとすることもなく祥高さんと一緒に工廠や艦娘の宿所、入渠施設などを外から確認した。その先には埠頭があって外洋から堤防で仕切られた美保鎮守府の港湾部となっていた。

私は青い日本海を眺めながら感想を述べた。
「ここは艦娘専用だから他所の鎮守府よりも小さいな」
「はい。ですから艦娘たちは埠頭ではなく倉庫や専用の桟橋から出撃することが多いです」

……それは他の鎮守府でも同様だった。ここの埠頭は一般の船舶用だから最低限のモノがあれば十分なのだ。

「それに、ここには起重機もないんだな」
振り返りつつ私は確認するように呟いた。そういえば鎮守府に必須の大規模な入渠ドックもない。

そこで私は腕を組んで言った。
「ここが埋立地で良かったかもな」
「はい?」

祥高さんが不思議そうな顔をして振り返る。

私は説明する。
「今朝、陸軍の憲兵さんに送って貰ったんだが彼、ここが鎮守府だと分からなくてね。それに、もし市街地に近かったら、いろいろ面倒だろう」

すると私の言葉に彼女は微笑んだ。
「はい。ですから地元でも、この辺りは釣り好きな人以外は、ほとんど来ません。軍機保持という観点からも理想的でしょう」
「ははは、謎の施設に女学生ばかり。別の学校と勘違いされそうだな……魔法学校みたいな」

私が冗談交じりに言うと彼女は意外に少し真面目な表情に変わった。
「実は、その鎮守府らしからぬことを逆手に取って諜報部隊に特化する計画もあります」

「え?」
まさか嘘から真(まこと)か?

彼女は黙々と説明を続ける。
「そもそも、ここが設置された背景に日本海側の護りという目的と……」
「あぁ」

ここで秘書艦は少し周りを気にして続けた。
「舞鶴や佐世保を含め幅広く他の鎮守府への睨みを利かせる諜報活動を実施するという側面もあります」
「……」

これには言葉が出なかった。

 なぜか私には寛代の姿が思い浮かんだ。要所要所に絡んでくる駆逐艦……もしかしたら彼女も、その一翼を担っているのだろうか?

(これは想像以上に美保は重要な拠点を目指しているのではないか?)
私は策略や陰謀と無縁な道を歩いてきたつもりだ。しかし、この期に及んでまさか?

そこで祥高さんは微笑むと帳面を持ち直して言った。
「今のことは頭の片隅に留めて置いて下さい……では参りましょう」

短い髪をサラサラと風になびかせつつ彼女は歩き始めた。その後姿を見ながら私は改めて思った。
(君は本当に単なる秘書艦なのか?)

 さて美保鎮守府は埋立地であり敷地も小さい。島風が言った通り鎮守府内の巡回は短時間で終わりそうだ。

気になるのは艦娘専用部隊だけに男子禁制部分が普通の鎮守府より多いことか。

(まぁ、そこは直ぐ慣れるだろう)
私は楽観視し始めていた。今さら悩んでも始まらない。

また私たちの様子が分かってくると艦娘たちも多少は緊張が解けたのだろう。すれ違う艦娘たちも敬礼でなく会釈や手を振る者も現れ始めた。何だか調子が狂うな。ただ私も敢えて、そんな彼女たちを咎(とが)めようとはしなかった。

やがて祥高さんは微笑んで言った。
「だいたい宜しいでしょうか?」
「そうだね」

腕時計を見ると僅か1時間ちょっとで鎮守府内の巡回は終わった。

私は言った。
「基本的な設備の配置は、どこの鎮守府も同じものだな」

彼女も微笑んだ。
「はい。むしろ、その方が宜しいですね」
「……」

その姿に私は一瞬、考えた。

この秘書艦の達観した姿勢。そこは普通の艦娘とは若干、違った雰囲気があり特殊に思えるところだった。

 私が帽子を取ると薄っすらと汗をかいていた。
「確かに山陰の陽射しは強いな」

帽子があって正解だった。帳面を丸めながら彼女は言った。
「いったん執務室へ戻りましょうか」
「あぁ」

私たちは本館の二階へと戻った。

 私が席に座ると祥高さんは説明を始める。
「一休みした後で今度は軍用車に乗って鎮守府近郊の確認に出かけます」
「うむ」

それから鳳翔さんにお願いして、お茶を持って来て貰った。数分と経たずに直ぐにドアがノックされた。
「失礼します」

落ち着いた表情の鳳翔さん。彼女の姿はなぜかホッとする。
それにしても、この対応の速さは小さい鎮守府ならではだな。最初は戸惑うが慣れてくれば、むしろこの方が良いかも知れない。

配膳しながら鳳翔さんは言った。
「今日は日差しが強いですね」
「そうだね」

つくづく彼女は癒し系だな。こんな艦娘ばかりだったら気も楽だが。

 15分ほど休憩してから鎮守府本館の横にある車庫へ向かった。
これから行くのは私と祥高さん、それに青葉さんと……どういうわけか駆逐艦の寛代だった。朝のゴタゴタ疲れもあるだろうに彼女は自分から申し出たそうだ。もちろん寛代に来て貰う事は非常時の通信役として重宝するらしい。

(本当かな? また寝過ごしてしまわないか)
私は無表情の彼女を見ながら苦笑した。

 運転は青葉さん。取材だけでなく軍用車の運転もこなすとは器用だな。
「えぇ、取材記者ってのは自力であちこち走り回りますから」
「なるほど」

私の気持ちを悟ったのか彼女は、やや恥ずかしそうに説明するのだった。確かにハンドルを握る艦娘というのは珍しい。

「では行きますね」
青葉さんの運転する軍用車は軽やかに基地を出た。ちなみに彼女も巡回に立候補したらしい。

(さすが好奇心旺盛な情報通だ)
ネタの題材作りには積極的なんだろう。

 軍用車は鎮守府の敷地を出る。そして埋立地の広い道路から幹線道路目指して走り始めた。車内は静かだ。青葉さんを除けば、あまり喋らなさそうな艦娘ばかりだよな。

私は車窓から外の景色を見ながら過去に思いを馳せた。
(……十数年前まで、この鎮守府一帯は海だった)

夏の穏やかな日本海か……私は、ボンヤリと来るときに憲兵さんと交わしたやり取りを思い出していた。

 すると早速ハンドルを握った青葉さんが私を攻めてきた。
「司令官は、ここのご出身なんですよね?」
「あぁ」

車内は助手席に秘書艦、私は後部座席に座っている。だから青葉さんは必然的に大声になる。

彼女は、もともと芯のある声だから多少の風切り音も気にならない。
「司令のお住まいは、この近くですか?」
「いや、港のほうだが……学生の頃は夏になると友人に誘われて授業をサボって海水浴に来ていたな」

「海水浴ぅ? ここで?」
実に不思議そうな表情の青葉さん。なるほど、ここが埋立地だという認識は無いか。

私は説明した。
「ここは、もともと遠浅の海水浴場だったんだ。それを埋め立てて鎮守府にした……そりゃ大変な大工事だったらしいな」
「あ、ああ」

そこでようやく美保鎮守府が埋立地だ、という事実を思い出したらしい彼女。その恥ずかしさを隠すように補足するように言った。
「Y沢議員……えっと、本人か父君だったか忘れましたが、尽力したらしいですね」
「Y沢……」

そこで何故か、秘書艦と寛代が反応した。なるほど確か、地元選出の代議士だよな。

そこで、すかさず青葉さんが突っ込んでくる。
「司令、ご存知ですか?」
「あぁ、余り芳しい噂は無いが、地元の代議士だからな。意識はするさ」
「なるほどぉ」

何かを言いかけた彼女を遮(さえぎ)るように私は続けた。
「正直、最初にここに着てビックリしたよ。工事計画も何となく知っていたけど、実物を見るのは初めただったから」
「……あ、埋立地のことですね?」

青葉さんは明るく反応する。
「海が陸になっていたら誰でも驚きですよね」
「あぁ、このご時世に、良くこんな工事が出来たものだよ」
「ホンとは工場とか、企業を誘致したかったらしいですね」
「だろうな」

青葉さん、口調が記者っぽくなってきた。そこは知識として知っているのだろう。
「今でも釣りも出来ますし、鎮守府が誘致されたのも必然でしょうね」
「あ? ……そうかな」

私には彼女の言った『必然』という単語が妙に引っかかった。まさか鎮守府を誘致する為だけに埋め立てをしたわけではないだろうが。

それを悟ったわけではないだろうが青葉さんは言った。
「こんな広い土地……私たちが来なかったら宝の持ち腐れですね」
「そうだね」

 なるほど、美保鎮守府は埋め立て地の全てを使っているわけではない。ほんのごく一部だ。それでも、まだ大半が更地のまま、海風に曝(さら)されているのは、艦娘でも勿体ないと感じるのか。

「実際、他所の鎮守府と違って入り組んでいませんから。艦娘的にも使い易いですし」
これは実際に使っている艦娘の意外な感想だな。隣の寛代も、しきりに頷(うなづ)いていた。

 しばらく走ると松の防砂林が見える。その中を通り抜けると交差点だ。そこは着任するときにも通った弓ヶ浜半島を縦断する片側二車線の大きな幹線道路だ。

ただ残念なことに海外によくある『緊急時の滑走路への転用』はできない。もともと弓ヶ浜半島に沿って走っているから道が緩やかに蛇行しているのだ。直線ではないから飛行機の離着陸はムリだ。

 それに美保には無理に道路を使わずとも空軍基地も既にある。
(もっとも私が着任する際に深海棲艦に、あっという間にやられてしまったが)

 さらに、この幹線道路を米子市内方面へ数キロも走れば三柳という場所に陸軍の滑走路まである。こんなところに第三の軍事基地たる美保鎮守府が出来たわけだ。

これだけ基地が密集していれば地方の寂れた町でも敵は重要拠点と勘違いするのだろうか?
(いや……)

私は考え込んだ。
(今朝の攻撃は単なる敵の気まぐれとは思えないのだ)

いろいろ気になることは多い。私は頭の後ろに手を組んで座席に、もたれ掛かった。
「下手な考え……だな」

ふと視線を感じて隣を見ると、寛代が不思議そうな顔をしてこちらを見つめていた。


以下魔除け
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Prohibida la reproduccion no autorizada.

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※これは「艦これ」の二次創作です。

第16話(改2.4)<巡回(鎮守府内)>
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第17話(改2.4)<巡回(鎮守府の外)>




「くれぐれも自重して下さいね」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第17話(改2.4)<巡回(鎮守府の外)>

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「あまり時間がありません。市内の主要部分、ざっと回りましょう」
後部座席に私と並んで座った秘書艦の祥高さんが言った。

「アイアイサー」
運転席の青葉さんは前を見詰めたまま片手で敬礼をする。

 祥高さんは私を見て確認する。
「どこか、見ておきたい地点は御座いますか?」
「いや、特には無いが」
「……分かりました。青葉さん、一時間程度で周れる主要地点を。場所は、お任せします」

その言葉に妙に明るい声で答える運転手。
「イエッサー」

(なるほど記者なら、そういう選定も得意そうだな)
私は何故、彼女が運転手に選ばれたのか理解した。実際、青葉さん自身も嬉しそうだが。

「曲がりまぁす」
青葉さんは軽やかにハンドルを回し軍用車は幹線道路を右折した。

松林の間から青い海が見えている。彼女は話し掛けてきた。
「司令、ご存知でしょうけど右手が美保湾で、正面のが高尾山です」

「あぁ」
その説明に私も頷(うなづ)いた。

「懐かしいな」
つい、そんな言葉が出た。それには誰も反応しなかったが私が地元出身だということは改めて認識したことだろう。

 やがて前方に境水道大橋の骨組みがチラッと見えてきた。その手前の交差点で車が減速する。

「左折します」
青葉さんはハンドルを左へ切る。路(みち)は狭くなり境港の市街地へ入った。

「まず最初に『お台場へ』参りましょうか」
彼女が言うと同時に目の前に広場が見えてきた。

「えっと確か、ここに陸軍の砲台があったはずですが」
私たちが近づくと直ぐに『それらしいもの』が見えた。だが無残に破壊された瓦礫(がれき)の山。それが、かつて対空砲だったことは直ぐに分かった。

「うわぁ、意外にやられちゃってマスねえ」
ハンドルを握りながら青葉さんが言った。

「凄まじいな」
私も呟く。陸軍の地上施設へ敵の徹底的な攻撃の結果だ。

「……」
「……」
祥高さんと寛代は無言だった。だが深海棲艦たちの破壊力と執念には圧倒される。私と寛代は、よくこんな敵の攻撃を潜り抜けたものだと思うと改めてゾッとする。

 私たちの車は『立入禁止』と表示されたロープに沿って、ゆっくり移動した。その向こうでは憲兵や陸軍の兵士たちが復旧作業をしている。時々彼らがチラっとこちらを見るが軍用車に乗った私たちが海軍関係者だと分かるのだろう。特に追い払われることはなかった。

「写真撮っちゃ……ダメですよね」
青葉さん、さっきからソワソワしているかと思ったら。秘書艦に上目遣いで聞く。

(結論の分かる質問だな)
私は、そんなことを考えた。

「……」
当然、直ぐ祥高さんは『ダメ』という意味で無言で頷く。

(そりゃそうだ)
破壊された陸軍の高射砲を、うかつに撮影しようものなら! 

(同じ軍人であったとしても即、憲兵さんに捕まるな)
私も苦笑した。

「残念だなぁ」
その呟きには妙な実感がこもっていた。記者でもある青葉さんが興味本位でないことは分かるが、これは陸軍にとっても機密事項だ。それに負け戦の証拠だから彼らも気分を害するだろう。

「気持ちは分かるけどな」
私は彼女に声を掛けた。

苦笑した青葉さんが答える。
「では脳内シャッターに刻んでおきます」
「うまいこと言うな」
「えへへ」

彼女は車を、ゆっくり前進させながらジックリ見ていた。

(……逆に言うと、こういった攻撃を受けながら耐え抜く艦娘たちも凄いわけだ)
改めて思った。

「私たちも、よく逃げ延びたものだな」
私は寛代を見ながら呟いた。彼女もまた無言で高射砲を見詰めていた。

(この子なりにも何か感じるものがあるのだろうか)

すると秘書艦が口を開いた。
「青葉さん、そろそろ」
「あ、ハイハイ。では、次に参りますぅ」

やや名残惜しそうにして青葉さんはアクセルを踏み込んだ。ドルンという太い発動機の音を響かせて軍用車は加速する。広場で作業している憲兵たちが再びチラリとこちらを見たが、やはり私たちを過度に意識してはいない感じだ。

私は陸軍の反応に少し違和感を覚えた。これが都市部だと海軍に対して、あからさまに邪魔者扱いや嫌がらせを受けるものだ。実際、中央でも陸軍の憲兵と海軍は仲が悪かったりする。

ところがここ山陰では、お互いにノンビリしているような印象だ。
(これも地方だから?)

私は隣の祥高さんに聞いた。
「ここでは陸軍と海軍が仲が悪いってことはないのか?」

「そうですね……」
彼女は一瞬、不思議そうな顔をしたが直ぐに私の質問の意図を理解したようだ。

「ここでは中央ほど対立している雰囲気はありません」
「なるほど」
私はふと今日、駅から送ってくれた親切な憲兵さんを思い出した。

「そういえば、さっきの憲兵さんも親切だったな」
私は頭の後ろに手をやって座席に深く腰をかけた。すると前の助手席に座っている寛代が頷いている。彼女にも彼のことは印象に残ったのだろう。

 公園を離れた軍用車は路地を抜けて境水道の岸壁へ出た。そこには境水道に沿って一本の道路があった。

「へえ、ここは変わったなぁ」
思わず声を出した私。

すると青葉さんが直ぐに反応する。
「司令、この辺りも、よくご存知なのですね?」
「あぁ、地元だからな。ただ、この岸壁は私が居た頃は市場だった記憶があるが」

私が言うと彼女が説明する。
「えぇ青葉も美保に来て、ちょっとですけど確か最近……戦争の影響かな? 漁獲量が減ったんですって」
「なるほど」
「それで市場が縮小されて新しく道路が出来たみたいですよ」
「なるほど、よく調べているな」

感心した私に青葉さんは頭をかいて恥ずかしそうな素振りを見せた。
「えへへ。一応ぉ、記者ですから。地元のことは一通り調べてあります。じゃ、この道路に沿って境水道を西へ向かいまぁす」

祥高さんが境水道(海峡)の向こうに見える山を指差しながら説明する。
「右の山……島根半島の頂上に電探設備が見えますか?」
「ああ、あれか」

私が自分の横の窓から見上げると、ちょうど島根半島の頂部分にドーム型の建物が見えた。{IMG13220}

「確か空軍の施設だったか?」
「そうです……あれで日本海の広い範囲の航空機を捕らえ船舶も一部、可能だという噂も」
「海軍の設備でないのが残念だなあ」
私は呟いた。

すると青葉さんが割り込む。
「この境港の岸壁と島根半島は境水道と呼ばれる狭い海峡になってまして……あ、ご存知でしたね」
「そうだな。ここは船の往来が激しくて水の流れも速い」

私が答えると彼女も頷いた。
「島根半島側は細い道路と小さな船着場や民間の造船所がある程度ですけど、こちら側……境港は埠頭が整備されて漁船や渡船が係留されてますよね」
「だな。確か以前、境港と半島を結ぶ渡船があったが大橋が出来て廃れたな」

すると青葉さんは笑った。
「艦娘なら、そのまま渡っちゃうンですけどね」

寛代も、しきりに頷いていた。

 さらに車が走ると桟橋に大きな旅客船……隠岐との連絡船が停泊していた。
「フムフム港町らしい活気が、ありますねえ」

青葉さんは興味津々だった。
(車を止めたら、そのままカメラを担いで取材に行きそうな勢いだな)

助手席で黙っていた寛代も珍しく興味深げに漁船を目で追っている。それでも時おり首を傾けて何かの無線を傍受するのだろう。じっと耳を傾ける仕草をしていた。

(境港には高い建物はないからな。どこでも無線傍受し易いのだろう)
この駆逐艦娘は電探特化なんだなと改めて感じた。

「あの旅客船を時々美保鎮守府の艦娘たちで『護衛』することがあります」
祥高さんが説明する。

「へえ……ここでは、そういう需要もあるんだな」
「単価は低いですけど」
祥高さんが現実的な話をした。

「そりゃ……まぁ我々は軍人だし地元奉仕のボランティアだな」
私も苦笑した。

「では、駅へ周ります」
青葉さんの言葉で車は岸壁を進んで境港の駅前へと向かう。

 数分と経たないうちに境線の終着駅でもある境港駅が見えてきた。当然だが境港の駅舎は米子駅よりは小さい。私は言った。
「魚市場や漁港は、それなりに活気があるが。戦時下で街は少し沈んでいるかな」

「はい。情報統制や食料の配給制限もあって市民生活も不便だと思います」
青葉さんが応えた。

(おまけに今朝、空港周辺の空襲だ。この港町には衝撃的な出来事だな)
そう思いつつ、ふと見ると車窓から彫像が幾つも見えてきた。

「あれは?」
私が聞くと秘書艦が答える。

「妖怪のオブジェです。『町おこし』の一環だそうです」
「あぁ、噂には聞いた事があるな。何だっけ?」
「水木しげるロード……地の人は『鬼多郎ロード』とも呼んでいます」
「なるほど」
小さな駅前広場は田舎町には不釣合いなほど不気味な妖怪オブジェがいくつも並んでいる。その落差が妙な存在感を醸(かも)し出しているのだ。

「これも一種のハイカラな文化なのか?」
私は呟いた。

(戦時下だからこそ、こういった『遊び心』も必要かな?)
そんなことを考えた。

 さっきから小刻みに震えていた青葉さん、ついに直訴した。
「スミマセン!」

懇願するような表情で振り返る。秘書艦である祥高さんは直ぐに事情を察したらしく微笑んで言った。
「仕方ありません。でも、くれぐれも自重して下さいね」
「はい!」

応えるや否や彼女はカメラを抱えて車から降りると彫像や町の風景の撮影を始めた。確かに通りでは地元の人間ではない観光客らしき人が歩いていることに改めて気付いた。

「なるほど観光地か」
私は呟いた。寛代も面白そうに見詰めている。開いた車窓からは、町の喧騒(けんそう)と、穏やかな風が吹き込んで来る。

私はボンヤリ考えていた。明後日は、ここで中央からの視察団を出迎えるのだ。
(軍人というものは前衛でも後衛でも忙しいものだな)

そうこうしているうちに青葉さんは数分と経たずに戻ってきた。私用だという自責の念はあるらしい。
「済みません、失礼しました!」

微笑んだ祥高さんが青葉さんに何かを囁(ささや)く。彼女は大きく頷いて敬礼した。
「了解です! では出発します」

軍用車は郊外へ向けて再び走り出した。

 10分くらい走っただろうか。周りは閑散とした田園地帯になった。やや広い道路の路肩に車を止めて祥高さんが島根半島を指差した。
「先ほども確認しましたが、あれが高尾山の空軍の電探設備です」
「なるほど、ここからでも目立つな」

何となく、『上から目線』という単語が連想された。すると青葉さんも続ける。
「空軍って、なかなか重要な索敵情報は、こっちに提供してくれないんですよねぇ」
「何だ? ここは空軍と、あまり仲が良くないのか?」

私が応えると祥高さんが返した。
「仲が悪い、と言うほどではありませんが。ただ今朝の攻撃でもギリギリまで情報提供が無かったですね」
「そりゃ拙い」

私の言葉に頷いた彼女。
「はい。ですから空軍迎撃機が急発進して何機か撃墜されてから、やっと私たちも動けました」

合わせたようにブツブツと寛代。
「既成事実確認後の緊急発進」

それを聞いた私は誰にとも無く呟いた。
「敵が地上を空襲したのは今回が初めてではないだろう?」

それから改めて祥高さんを振り返った。
「うちにも電探はあるだろう? 艦娘だって持っているはずだが」

しかし彼女は寛代を見ながら残念そうに苦笑いをした。
「ええ。でも鎮守府いちばんの電探娘(寛代)は荒島の方まで行き過ぎて索敵どころではありませんでした。他の艦娘の電探も地上からでは範囲も狭く精度も悪いのです」
「おいおい、それって……大丈夫か?」

呆れたような私の言葉に彼女が応える。
「山城さんの電探も旧型ですし。他は駆逐艦や巡洋艦がほとんどで……せめて美保に正規空母か戦艦が居ればと思います」

私は肩をすくめた。
「やれやれ。先が思いやられるな、ここは」

遠くからは美保空軍の航空隊が飛び立つ音が響くばかりだった。


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b
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第17話(改2.4)<巡回(鎮守府の外)>
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

・ハメ,  初稿:2015年 改2.4 0:31 2019/03/31
・tinami,No.855097 初稿:2016年06/25 00:46 改2.4 18:13 2019/04/06 閲覧:326/319
・pixiv,  初稿:2015年7月5日 改2.4 18:21 2019/04/06 閲覧:267
・暁 ,  初稿:2017年02月24日 10時41分 改2.4 18:22 2019/04/06 閲覧:462/473
・PCサイト(スマホ)初稿:2018年04月 改2.4 18:37 2019/04/06


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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。



第18話(改1.5)<タフガール>



「これは青葉の極秘メモですぅ」

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マイ「艦これ」「みほちん」
第18話(改1.5)<タフガール>
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 ここで、ちょっとした事件が起きた。いつもは大人しい駆逐艦の寛代が珍しく怒り出したのだ。

「……!」
唇を尖らせた膨れっ面になって静かに怒っていた。
相変わらず何かを喋るわけでは無いのだが、その姿には秘書艦も慌てた。

「ゴメンなさい。寛代ちゃんも大変だったねぇ」
そう言って、なだめている。

その隣ではハンドルに、もたれ掛かった姿勢で青葉さんがニタニタしていた。

(なるほど……これが日常的な艦娘たちのやり取りなのか)
私はそんなことを感じた。

恐らく普通の女性だけの部隊なら当たり前に見られそうな情景。それは艦娘であっても変わらないのだろう。

 やがて落ち着いた祥高さんは私を見て少し肩を竦(すく)めるような仕草をした。
「失礼しました、司令」

私は笑った。
「別に良いよ。まぁ微笑ましいというか可愛らしいというか……男性だけの軍隊じゃ絶対にあり得ない世界だな」

「スミマセン」
さすがの秘書艦も恐縮していた。

「いや、そんなに縮まることもない。これは壮大な実験だと思えば良い」
私は、そのまま車のドアを開けると外に降り立った。

 ここは境港市の郊外で田畑を渡る風が心地良い。遠くには大山も見える……何となく車内の艦娘たちが私の背中から注目しているのを感じた。

軽く帽子を取った私は車を振り返った。
「艦娘だけの鎮守府を、この美保に作ったのも軍令部か海軍省か、上の連中には何か考えがあるのだろう」

「そうですね」
意外にも祥高さんは頷いて同意した。だが、その姿に自分の考が大筋で間違ってはいないことを確信した。

再び大山を見て私は腕を組む。
「新しいことは私も嫌いじゃない。特に旧態依然たる軍隊組織に風穴を開けるくらいのことは、やりたいと思っている」
「……ですよね?」

(いきなりの合いの手?)
ちょっと驚いた。その声の主は?

……見ると青葉さんが全開にした窓枠に肘を突いてニコニコしていた。
(やっぱり君か)

なるほど好奇心旺盛な子だよな、と思わせられた。

 私はポケットからメモ帳を取り出した。
「えーっと『みほちん』に所属する戦艦は山城だけ……か。空母も軽空母のみと、あとは駆逐艦と巡洋艦が少々。フムフムこじんまりしてるな」

メモに書かれた自分の文字を見ながら私は考え込んだ。
(艦娘だけの部隊とはいえ、あまりにも小さい)

そう思っていたら青葉さんが口火(くちび)を切った。
「司令なりに何か感じられましたか?」

「そうだな、きっと美保は日本一小さな鎮守府だ。その『大きさ』にも『僻地』であることにも何らしか意味を感じてしまうから興味深いよ」
私も元々は作戦参謀だ。分析は得意だ。

「なるほどお」
そう言うなり彼女もまた何処からとも無くメモ帳を取り出していた。

「おいおい、記録するのか?」
私は慌てた。

「あ、記事にはしませんから」
やはりニタニタしながら鉛筆を動かしている彼女。

「これは青葉の極秘メモですぅ」
おどけている。

「頼むよ」
私は脱力した。

すると祥高さんも車を降りてきて私の隣に立つ。
「……」

 しばらく、その場に居る誰もが無言で大山を見詰めていた。
徐々に日が傾いて、弓ヶ浜には涼しい風が吹き始める。

 やがて祥高さんは静かに、そして総括するように言った。
「着任早々、整理することが、たくさんあります。司令が着任されて海軍はきっと、この美保から大きく変わっていくと思います」

「そうか」
反射的に、そう応えた。

だが、その時分の私は、まだ何も分かっていなかった。その秘書艦たる彼女の台詞の重さを私は後から痛感することになるのだ。

 腕時計を見て祥高さんは微笑んだ。
「そろそろ戻りましょうか? 司令」
「ああ、そうだな」

彼女が青葉さんに目配せする。青い髪の少女は敬礼をした。
「アイ、では鎮守府へ戻ります」

 私たちが車に乗り込むと発動機が軽快な振動とともに始動する。西からの真っ赤な夕日を浴びながら軍用車は鎮守府へと向かう。

 埋立地に戻る頃には空には星が見え始めていた。
私は正面玄関前で車を降りた。ふと見上げると美保鎮守府の建物は堂々とした佇まいを見せていた。

 敷地内では訓練を終えた艦娘たちの点呼の声や片付け作業をする者の声が響く。また通路では食堂へ向かう者、哨戒任務に付く者たちと慌しい雰囲気だった。

 私は秘書艦と共に二階の執務室に戻った。
祥高さんが大淀さんや夕張さんに指示を出して、ようやく仕上がった鎮守府の資料を私は、しばらく眺めていた。

 窓の外は夕日で真っ赤に染まった雲が浮かんでいる。私は手を休めて呟いた。
「この地方は雲が綺麗だよな」

『八雲(やくも)』という単語が象徴するように出雲地方は夕方、特に雲が綺麗だ。

そして、この鎮守府の周りでも夏の虫がリンリンと鳴き始めていた。美保は海辺だから窓を開ければ心地良い風が吹き抜ける。

思わず呟いた。
「風鈴でも吊るしたくなるな」

「司令の宿舎は、この建物の裏手にある別棟の二階です」
私の思いとは裏腹に別の書類をまとめながら祥高さんが説明する。

「構内電話と非常用の無線機、簡易小火器類も部屋に備え付けられています。また緊急時の脱出口と屋上への非常口があります。後ほど実際に、ご確認下さい」
「分かった」
さすがに物々しい。ここが鎮守府という一定水準を満たした軍事拠点だということを改めて感じる。

「……基地内では落ち着かないと仰って鎮守府の外に、お住まいを構える歴代司令も居られましたが」
そこで一旦、間を置く祥高さん。

「もともと人口も少ない土地。借家も市街地まで出ないと……というので結局、外に住まわれると今度は通勤が億劫になるようです」
「分かるなあ、ソレ」
私は苦笑した。確かに普通の軍隊なら軍用車で送迎って手も『有り』だろう。

しかし、ここでは艦娘が運転することになる。体面を重んじる提督だと恥ずかしくてガマン出来ないだろう。

 祥高さんは艦娘の例に漏れず美人だ。背筋がシャンとして凛とした雰囲気がある。そんな彼女を見て不思議に妄想が湧いてこない。それは彼女自身が持つ何かしら一途な印象からだろうか? 

(私の父も軍人だから分かる)
そう、彼女からは『軍人の血統』を感じるのだ。だから私に言わせれば、その雰囲気(オーラ)からして秘書艦の鏡だと言えるのだろう。

同時に、そんな彼女からは艦娘を越えた人間臭さを感じるのも事実だ。
(その点は何度考えても不思議なことだな)

私は頬杖を付いた。
(それに彼女は妙に落ち着いている)

……艤装を外した艦娘は外観では艦種が分かり難い。しかも彼女は、やや長身だ。つい『戦艦か?』という錯覚に捉われる。だから提督代理を務めていたことも納得できる安定感があった。

もちろん重巡級になれば落ち着いた艦娘は少なくない。彼女の豊富な経験が的確な判断と安定感を生んでいるのだろう。

(ただ『祥高』って名前、どこかで聞いたよな)
私は改めて疑問を感じた。

だが直接、尋ねたところで彼女が私の個人的記憶を理解する訳ではない。
(やはり資料を探すか?)

 そのときコンコンとドアをノックして顔を出した鳳翔さん。
「夕食の、お時間です」
「ありがとう」

そんな軽空母の彼女も『艦娘なのか?』 ……っていうくらい板についていた。
(彼女の制服が和装なので、なおさらだな)

書類を置いた私は祥高さんに言った。
「そろそろ、降りようか」
「はい」

 今日の夕食も当然、隊員と同じ食堂で頂くことにする。
夕方という時間帯もあって、食堂はまだ少々ゴタゴタしていた。

私たちが降りて行くと艦娘たちが敬礼をする。いちいち制するのも面倒なので私も今では簡単に返礼をしている。それでも中には無視する兵(つわもの)もいる。

私は苦笑した。
「まだ完全には受け入れられていないようだな」
「……」

祥高さんが心配そうに、こちらを見るので私は言った。
「でも執務室に食事を持って来て貰うのも寂しいだろう?」
「はい」
「人付き合いは苦手だけど引きこもるのも嫌いだ」

食堂の奥にあるテーブル席は、ほぼ司令である私と秘書艦の指定席になっていた。

でもこうやって食堂に降りてきて食べる司令官は美保鎮守府では初めてらしい。艦娘たちは、こちらをチラチラ見ながら興味津々といった感じだ。

 直ぐに鳳翔さんが夕食を持ってきてくれた。
その時、何処からともなくスッと静かにやって来た寛代が案の定、自分の夕食も持参で私たちの隣に座った。

「やれやれ」
私は笑った。でも、この子は大人しいから別に良いか。

「頂きます」
「頂きます」
祥高さんと手を合わせる。重巡クラスになると細かい所作が自然と人間臭くなって来る。

「……」
そして静かに寛代も。

(そういえば以前の鎮守府でもそういう艦娘が居たな)
私は記憶を手繰った。

だが祥高さんの場合は特に艦娘が記憶したと言うよりも自然で人間っぽい印象が強い。
(まぁ、それも含めて彼女のことは追々(おいおい)調べてみよう)

美保に戦艦が居ないのは沿岸警備が主任務だと想定されているのだろうか。

だが今後、脚の長い戦艦や正規空母が配属されれば遠征命令なども受諾していくのだろう。

 夕食の時間は昼間よりもかなり緩んだ感じだった。ここ美保鎮守府の食事は水や空気が良いせいか、とても美味しい。

(やっぱり海軍は、こうでなくちゃね)
海軍の遠征の楽しみは食事くらいだからな。

「夜戦ン!」
……だが食堂の中には緊張した一団が居た。約一人の艦娘が盛り上がっている。

「何か妙なムードだな」
私は思わず呟いた。

すると祥高さんは言う。
「彼女たちは、これから一晩中、夜間訓練をします」

「なるほど司令不在でも、きっちりと任務は継続中だな」
私の言葉に祥高さんは微笑んだ。海軍としては頼もしい限りだ。

食事をとりながら彼女は続けた。
「月に数回、軍令部の指示で作戦指令室が24時間体勢になります」
「それは定期的なものか?」
「はい。暦(こよみ)に従う場合と舞鶴や佐世保での戦闘状況を考慮して臨時に指示される場合があります」
「なるほど」

祥高さんは一瞬、食事の手を止めた。
「これは当番制ですが司令には随時ご入室が可能です。また状況によって緊急時には昼夜問わず司令から、ご発令頂けます」
「なるほどね」

(……それは要するに鎮守府の司令は24時間体勢で待ち構えて居ろって事だな)
私は軍部の無言の圧力を感じて苦笑した。

「おや?」
そう思った私は箸を止めて祥高さんを見た。規律正しい彼女の姿は、もはや『燃える艦娘』にしか見えなかった。

「祥高さん、貴女は凄くタフでしょう」
思わず口走ってしまった。

「は?」
「……いや、何でもない」
焦った私は視線をそらして隣に目をやった。恥ずかしい。

 さっきから当然のような顔をして私の隣に座っている寛代は相変わらず黙々と食べている。

それでも彼女は時おり首を傾げる仕草をする。何処かからの無線を傍受して上の司令部に転送するのだろう。ブツブツと呟くこともある。

 私の食事が終わる頃になると艦娘たちも私に慣れてきたらしい。さっきから入れ替わり立ち替わりで私たちのテーブルに来て質問攻めに遭う。

「美保は如何なのですか」
「もう慣れたわ」
「海軍なら当然ね」
「食べるの遅っそーい!」
特に寛代と同じ駆逐艦連中……電、雷、暁、島風あたりは騒がしかった。

(まるで言葉の弾丸だ。ここは本当に海軍なのか?)
何度か祥高さんが静止して離れるように指示しても、またゲリラのように舞い戻って来る。

(こうなると、もはや無法地帯だな)
ただ、こうやって艦娘たちとやり取りしていると次第に一人ひとりの性格が見えてくるようだ。

電は雷や暁に引きずられているが意外と芯はしっかりしている。誠実な印象だ。

島風も、その風体は誤解を招きそうだが、この子も駆逐艦離れした風格というのか。やはり本質的には案外キッチリした印象を受ける。

(そうだ。艦娘といえども外見だけで判断してはいけない)
それは軍隊組織の指揮官として注意すべきだろう。

「お互いに命を預ける関係になるんだよな」
私が呟くと寛代が無言で、こちらを見ていた。

『一蓮托生』という言葉がふと思い浮かんだ。美保湾の潮風が心地よかった。

 食堂の大きな窓越しには大山の左上に昇った月が美保湾に、薄っすらと反射しているのが見えた。
(海は凪いで居るな)


以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第18話(改1.5)<タフガール>
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・ハメ,  初稿:2015年 改1.5 0:31 2019/03/31
・tinami,No.855317 初稿:16/06/26 投稿  改1.5 4:05 2019/04/24
・pixiv,  初稿:2015年7月6日 閲覧数 305  改1.5 4:14 2019/04/24
・暁 ,  初稿:[公]2017年 02月26日    改1.5 4:23 2019/04/24 UP
・PCサイト(スマホ) 改1.5 UP 2019/05/12


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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第19話(改1.3)<白い闇>



「ワカラナイ……」

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マイ「艦これ」「みほちん」
第19話(改1.6)<白い闇>
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 私は食堂の時計に目をやった。
まだ少し時間的には早かったが今日は、さすがに疲れた。いろいろあったから肩に何かが圧(の)し掛かってくるような感覚を覚えた。

「もう休まれますか?」
気を利かせた秘書艦が言った。

「そうだな……そうするか」
一瞬、考え込んだ私だったが、ゆっくりと立ち上がった。

祥高さんは噛み砕くように言う。
「司令宿舎は食堂を出て左手……通路の突き当りを外に出た隣の建物になります」

「了解した」
「案内を付けましょうか?」
その秘書艦の言葉に、ざわめく駆逐艦たち。目配せするなって!

「いや、大丈夫だ」
私は残念そうな表情の駆逐艦と、冷静な秘書艦に軽く敬礼をした。
私たちの周りの艦娘たちも一斉に敬礼をする。

秘書艦の案内通り、食堂を出て左手に向かう。
本館から出て直ぐに司令宿舎だった。

「なるほど、ここか」
指を指して場所を確認した私は一旦、執務室に上がる。そして自分の鞄と併せて祥高さんが持ってきた資料を抱えて再び階段を下りた。

だが、そのまま宿舎のドアを開けようとして躊躇した。
「あれ?」

開かない。
「そういえば鍵を預かっていないな」

少し困っているとバタバタと言う足音がして秘書艦が走って来た。

「あっ、済みません。これを」
案の定、彼女の手には鍵が握られていた。

「……そうだね」
私は場を取り成すように苦笑した。

(秘書艦も忙しいからな。意識がぶっ飛ぶこともあるだろう)
そう思いながら鍵を受け取って、鍵穴に差し込んで回す。ガチャンと言う音と共に扉は難なく開いた。

「失礼しました」
祥高さんは少々顔を赤らめて恐縮している。

「いや大丈夫だ」
私は別に咎めなかった。むしろ小さな忘却をする彼女を余計に人間臭く感じていた。

「ありがとう」
私は固まっている秘書艦に軽く手を上げると宿舎へ入った。

明かりを付けながら考えた。
(艦娘は機械ではないが、その感情の動きは人間より少ない)

彼女は何となくその点が他の艦娘とは異なる印象を受けるのだ。

(そう言えば、あの大人しい寛代も感情の動きこそ乏しいが、やはり人間臭く感じる)
不思議なものだ。

 荷物を置いた私はざっと宿舎内を確認する。司令宿舎は二階建てだ。
一階には応接室と簡易厨房、それに専用の風呂。寝所は二階らしい。
(この鎮守府の規模なら十分過ぎるくらいだな)

しかし提督という位置に居る者の多くは贅沢な生活に慣れている。だから過去、美保に着任した指揮官も、この狭さに我慢ならなかった……ということだろう。

 それから脱衣所と浴室を確認した。今日は疲れたから湯船は有難い。
(何だかんだいっても水の制限の無い宿所は艦(フネ)よりは快適だ)

念のために浴室内を確認をすると、やはりバスタオルや石鹸など必要なモノは全て準備されていた。
(祥高さんは微妙にそそっかしいが彼女を支える鳳翔さんは、きっちりしている)

取り急ぎ今夜は来客もないだろう。私は早々に入浴することにした。
蛇口を見ると、お湯と水と両方あった。さすが鎮守府、海軍らしい。

(これなら直ぐにぐに入れそうだ)
少しホッとした私は腕時計のベゼルを廻して時間を合わせ、お湯の蛇口を回すと一旦、応接室に戻ってソファに腰をかける。

「はあ」
何だか疲れがドッと出てきた。

 そういえば艦娘たちも入渠(にゅうきょ)と呼ばれる専用の修理や整備をする施設がある。外見は『お風呂』だが彼女たちにとっては『修理』だという。

もちろん見た目は『女湯』なので上官と言えども『男子禁制』である。これを設置しないと艦娘を艦隊に組み込むことは出来ない。それが煩わしいと艦娘を敬遠する提督も少なくないくらいだ。

祥高さんの説明する顔が浮かぶ。
『作戦指令だけでなく入渠のタイミングや、そのための資材運用も司令の重要な任務です』
『それは面倒だな』

彼女は頷く。
『この鎮守府には今のところ運用資材を大量消費する艦娘は居ません。しかし今後、配備される艦娘によっては<大食い>の艦娘が来ることも予想されます』

『大食い?』
……確か正規空母は、よく働くけどメシも喰らうと言う話を聞いたことがある。直ぐに一航戦の『赤城』や『加賀』が思い浮かんだ。艦載機を運用するから当然だろう。

(だが彼女たちは海軍の主力だ。こんな僻地に来ることは無いだろう)
そういう艦娘のご機嫌取りも司令の重要任務なのだ。海軍始まって以来の艦娘だけの鎮守府の指揮官……意外に大変そうだな。

10分と経たないうちに私はサッと入浴した。まだ湯船は一杯ではないのだが、つい素早く済ませてしまうのは船乗りの習性だ。

寝室から夜空を見ると月は既に大山の右手の空で三日月となっていた。私は、そのままベッドに倒れこむ。

寝入りばなに、どういうわけか黒い蜂に追い掛け回される夢を見た。
(あの弓ヶ浜で襲ってきた敵の戦闘機だろうか)

ウトウトしているうちに私は深い眠りに落ちていった。

 気が付くと私は荒れ狂う冬の日本海に居た。そこは忘れもしない、あの『白い海』だった。



(まさか?)
気がつくと数十メートル先の海上に茶色い髪をやや振り乱した艦娘らしき少女が立っていた。微(かす)かに見覚えがあるが……やはり思い出せない。

ただ彼女の鬼気迫る姿にも関わらず私には不思議と恐怖は感じなかった。
むしろ懐かしさと同時に心を掻きむしる哀しみが伝わって来た。

(大きな目をした彼女)
……ダメだ。思い出せない。型式からすると恐らく軽巡だろうか。

そんな彼女は私を知っているらしく、こちらを向いて手を差し伸べ何かを叫んでいた。
『……』

(申し訳ない)
私には彼女の声がまったく聞こえなかった。

「君は……誰だ?」
荒れる海の上で私も彼女に問いかけた。だが私の言葉もまた彼女には伝わらないようだった。彼女の両手は空しく宙を切っていた。

直ぐに私の状況に気付いたらしい彼女はハッとした表情を浮かべた。

 ……お互い言葉も気持ちも伝わらない。
(この荒波のためか?)

逆巻く波の状況も目に入るが、やはり何も聞こえない。まるで無声映画のようだ。

 お互いに心苦しい時間が過ぎる。

私が無反応なことを悟った少女は哀しい表情をした。すると急に背後から黒い霧のようなものが現れた。

嫌な予感がする。このまま彼女を去らせては駄目だ。
「待て! ……おい、君っ」

だが私の叫びも空しく彼女は、みるみる黒いモノに包まれていく。

(もうダメか?)
私も諦めかけた、その時になって、ようやく何かが通じたのか? 
呟くような、か細い声が彼女から聞こえてきた。

『ワカラナイ』
「なに?」
私は改めて声の先を見た。

その時、私は衝撃を受けた。こんな哀しい表情の艦娘を未だかつて見たことが無かった。

彼女は俯(うつむ)き加減にハッキリした声で言った。
『ワカラナイ』

だが何かが私の記憶を邪魔している。どうしても君の名前を思い出せない。

何か申し開きをしなければ! そんな焦燥感に駆られた私は叫んだ。
「おーい、待て!」

だが、その問い掛けも空しく陰影の薄くなった彼女は、そのまま漆黒の闇の中へと消えてしった。

その軽巡の最期の声が幾度も私の脳裏で反復していた。
『ワカラナイ……』

それは水中で聞くような妙に鈍い反響を伴っていた。

白い海、灰色の空、そして漆黒の闇。
「……」

膠着(こうちゃく)して何も出来ない私が呆然としていると突然目の前の視界が開けた。それは……あの全滅させられた舞鶴沖の海戦だった。

 旗艦であった軽巡を失って右往左往しながら次々と敵の餌食になる若い駆逐艦たちの叫び声……まさに地獄絵図。

(これがなぜ? 今ここで……)
これは悪夢だ。

 私は決して優秀な司令官ではない。だが、あの海戦は思い出したくない。むしろ、それを忘れようとして必死に軍人としての責務を全うしようと努力してきた。

そのときの私は恐らく、うなされていただろう。だが悪夢は簡単には私を解放してくれなかった。いつ終わるとも知れない重苦しい感情の波が幾重にも私を襲った。

「はっ!」
翌日、早朝。

私は、ようやく外から聞こえてくる艦娘の怒鳴り声で目を覚ます事が出来た。

「助かった……」
思わず口に出した言葉。それが正直な感想だ。

気付くと全身、汗びっしょりだ。頭もズキズキして体が重い。
(あの「白い海」は舞鶴沖だ。だが、あの茶髪の子は?)

「……だめだ、いつも肝心な部分になると思い出せない」
しかし後味の悪い夢を見続けなくて済んだ。

 困惑しながらフラフラとベッドから立ち上がった私は少し明るくなった窓辺へと向かう。三日月は曙の空に、かなり傾いていた。

窓から見下ろすと、あの夜間訓練をしていた部隊がいた。何かで揉めているらしい。

隻眼(せきがん)の艦娘が怒鳴っていた。
「何度も言ってるだろう! 敵が居たんだよ。たっくさん!」

応対しているのは当直らしいメガネをかけた艦娘だ。
「いえ決して咎(とが)めているわけではありません。ただ戦闘は必要最低限に留めて頂きたいと何度も申し上げているはずです」

隻眼は負けない。
「でもよぉ、逃げたって敵は追撃してくるんだぜ。こっちは大破している娘もいるんだ。逃げ切れっかよ? そのまま轟沈するくらいなら徹底的に叩くべきだろう?」

メガネは言葉に詰まったようだ。
「だからと言って、あなたまで大破されて……」

「俺は良いんだよ。ゼッタイ負けないから!」
大破しているらしい隻眼は強気だった。

 どうも昨夜叫んでいた<夜戦娘>たちが大破したらしい。ボロボロになって前髪を垂らした、もう一人の艦娘に抱えられている。

見ると夜戦部隊全員が最低でも中破以上のようだったが幸い沈没した艦娘は、いないようだ。

ホッとすると同時に、二度寝する気分が失せた。沈みかけていた三日月は不気味な痘痕(あばた)を晒しながら我々をあざ笑うかの如く赤い色をして浮かんでいた……嫌な雰囲気だ。

 私は直ぐに着替えると作戦司令室へと向かった。


以下魔除け
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禁止私自轉載、加工 天安門事件
Prohibida la reproduccion no autorizada.

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※これは「艦これ」の二次創作です。

第19話(改1.6)<白い闇>
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・ハメ, (初稿)2015 (改1.6) 2019/05/30
・tinami, No.856191 (改1.6) 2019/05/30
・pixiv, 初稿:2015年  (改1.6) 2019/05/30
・暁 初稿:2017年 03月01日 (改1.6) 2019/05/30
・サイト:初UP 2018/06/23 (改1.6)2019/06/30 

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。





第20話(改1.3)<暗号と艦娘>



「本日当直担当の軽巡『大淀』と申します」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第20話(改1.3)<暗号と艦娘>
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 私はノックをせずに作戦指令室に入った。そこには通信装置を一心不乱に睨んでいる、さっきのメガネの艦娘がいた。

「あっ」
彼女は立ち上がると敬礼をした。

「失礼しました司令、本日当直担当の軽巡『大淀』と申します」
祥高さんとは少し違う雰囲気だが、キチンとした印象だ。

「なるほど私が着任したことの引継ぎは、きちんと出来ているんだな」
「恐縮です」
彼女は直ぐに姿勢を正して報告を続けた。

{

「司令、昨夜ですが夜間訓練中の神通の部隊が隠岐の近海で敵に遭遇しました。直ぐに交戦状態となり敵艦隊を制圧。当方は大破2、中破1でしたが幸い沈没はありません」
「そうか、良かった」

正直ホッとした。
(さっきの艦娘たちか……)
こういう戦果報告は、いつも結論を聞くまで冷や汗が出そうになる。

「ただ」
大淀さんは少し姿勢を崩しペンを額に押し当てながら報告書を見つめた。

「敵艦隊が6隻……他の鎮守府では良く見掛ける編成ですが山陰沖では珍しいです」
「そうなのか?」
私は腕を組んだ。

「はい。過去3ヶ月では初めての規模です」
「なるほど」

彼女は続ける。
「神通の報告では敵は、かなり高速で隠岐の南方を東進していたそうで、いずれも軽巡と駆逐艦で本隊と言うより『山陰海岸の偵察任務』との印象を受けたそうです」

私は壁の海図を見た。
「つまり今後、敵が何らかの大きな作戦行動に出る可能性も考えられるのか」
「恐らく……」

大淀さんは眼鏡越しに澄んだ瞳でこちらを見詰める。思わずドキッとした。もちろん、その表情には彼女に何か作為があるのではなく自然にそうしているのも分かる。
(艦娘は時折こういう表情を見せるから微妙なんだよな)

だが軍隊では不謹慎だ。私は自分の感情を押さえるように、ため息をついた。
「しかし明日には視察団が来るというのに敵に不穏な動きか。何か面倒だな……」
(まさか相手も何かを察知しているのだろうか?)

大淀さんは淡々と続ける。
「あと昨日から断続的に軍令部より大量の暗号文が入電しています」
「暗号?」
「はい。マル秘扱いの暗号電文のため解読に少々お時間が掛かりますが……朝食までには、ご報告出来ますので」

彼女は順を追って報告してくれた。
「祥高さんに、お渡ししておきます」

何となくキッチリした性格が出ている。
「分かった」 

私は頷いて窓の外を見た。東の空が白み始め、くっきりとした日本海に大山がボンヤリと浮かんでいる。
(今日も暑くなりそうだ)

軽く制帽を被り直した私は、しばらく指令室の資料を確認しながら現在の敵の状況を聞いた。大淀さんは淡々としているが、こちらの質問に即答する彼女は指令室要員の鏡だ。
(どことなく祥高さんにも似ているが、もうちょっと透明感がある)

そんなことを思いながら大淀さんの顔を、まじまじと見ていると彼女がふと気付いたような表情を見せた。
「あの、何か変ですか?」

意外な反応に私は驚いた。
「あ、いや……」

しばし考えてから私は言った。
「艦娘って本当に、一人ひとりが個性的だよね。君は判断力の速さが長所かな?」
「……」

ふっと硬直したような彼女。直ぐにハッとした表情に変わる。
「す、済みません。そんなことを言われたのは初めてで……」

その頬は真っ赤だ。
(あれ?)

今まではテキパキと、こちらの問い掛けにも応えていたのが急に声の調子も、しどろもどろになった。そして恥ずかしそうな顔をしている。その豹変振りには違和感があった。

私は頭に手をやりながら言った。
「あれ? 何か悪いこと言ったかな?」
「いえ、そうではなくて……その」

彼女は眼鏡を取ってハンケチで拭っている。何か罪悪感を覚えるな。眼鏡を取ったまま大淀さんは机の上にあった可愛い柄の水筒を取ると、お茶を一口含んでからホウッと深呼吸をした。

「ごめんなさい、私としたことが動揺致しました」
裸眼の素顔も素敵だと内心思った。

 大淀さんは改めて眼鏡をかけると先ほどまでのキリッとした姿と表情に戻って言った。
「司令、嬉しく思います。久しぶりに『艦娘』らしく扱って頂きました」
「……らしく?」

私は、ちょっと不思議に思った。彼女は説明を続ける。
「ご存知かも知れませんが、この美保鎮守府も長らく司令が定着せず不安定でした。最近は祥高さんが代理でしたが……」
「そうなのか?」

そう応えつつ彼女の表情を見ると明らかに何かが拭い去られたようなキラキラした表情に変わっていた。
「やはり司令官の位置は殿方が務めるのが相応しいと実感致しました」

私は改めてドキっとした。大淀さんは少し微笑んで続ける。
「はい。司令なら、きっと美保鎮守府も大丈夫だと思います」
「ははは」

私は苦笑したが彼女の表情は真剣だった。清楚な色気があるよな、この艦娘は。

 やがて起床ラッパの音と共に鎮守府全体がバタバタし始める。点呼、体操や訓練開始の掛け声が構内に響く。
(鎮守府の朝らしい雰囲気だな)

軽く会釈をした大淀さんは直ぐに定位置に戻った。それと同時に伝令管を通して各班から順番に点呼や各種報告が入る。

 彼女は何事も無かったように手際よく受け答えをして日報に記入をしていく。
(なるほど手馴れたものだ)

その切り替えの速さは祥高さんを髣髴(ほうふつ)とさせた。
私は聞いた。
「その点呼を受ける業務は君と、あとは祥高さんかな?」
「そうですね」

彼女は少し間を置いてから答えた。
「ただ現状は私と祥高さんだけです。これでは何かあったときに困るので今後に備え新しい補佐担当の艦娘を検討しています」
「なるほど」
(まだ人手不足なんだな)

 やがてドアを軽く叩く音がして鳳翔さんが顔を出した。
「あの、司令がこちらと伺いまして。朝食は食堂でお取りになりますか?」

私は振り返った。
「ああ。もし祥高さんが執務室に居たら私が食堂で食べることを伝えてくれ」
「かしこまりました」

彼女は軽く礼をして退室した。

 私は資料を元に戻すと軽く伸びをして大淀さんに言った。
「では済まない、私は朝食に降りるよ」
「了解しました」

大淀さんは軽く敬礼をした。良いね、こういうのも。

 廊下に出るとちょうど祥高さんが執務室から出てくるところだった。彼女は敬礼をして言った。
「おはようございます司令。早々ですが報告する内容がございます。食堂で、よろしいでしょうか?」
「ああ……」

私は軽く返礼した後、彼女と一緒に食堂へ降りた。

歩きながら祥高さんは聞いた。



「よく眠れましたか?」
「ああ」
(ウソだ)

よく考えたら艦娘に取り繕う必要は無いのかも知れないが、なぜか彼女には普通の人間と同じような対応をとってしまうんだ。そんな祥高さん自身も私のウソを見破っているような意味ありげな微笑を浮かべていた。

 食堂は各班が時間をずらしているので、さほど込んではいなかった。
しかし今朝も私と祥高さんの席にいつの間にか合い席になっている寛代と、そこに駆逐艦隊が絡む、にぎやかな状況には変わりはなかった。

 席について食事が配膳されるまでの間、祥高さんは私に書類の写しを渡しながら言った。
「確認したところ軍令部の暗号文と平行して送られた電報の指示が微妙に違っています」
「つまり?」
「電報では各鎮守府と本省から明日の朝、陸攻(りっこう)で空軍の美保滑走路に到着するとあります」

周りの駆逐艦がうるさい。気にせず彼女は続ける。
「しかし暗号電文では明日、各鎮守府から、それぞれ列車で来るとあります。また本省からは舞鶴経由で大艇(たいてい)が日本海に沿って到着する計画になっています」

陸攻は一式陸攻、大艇は二式大艇、どちらも海軍の航空機だ。
「また舞鶴から『警備増強のため艦娘の戦艦と空母を差し向けるので受け入れ準備をしておくように』との指示もあります」
「準備?」

私は苦笑した。
「艦娘の場合、ほとんど受け入れ準備は不要だよね?」

彼女も微笑んだ。
「仰るとおりですが」

私は美保湾を見ながら考えた。戦艦と空母とはいえ相手は艦娘だ。艦種の違いによる排水量の差は実質考えなくても良い。だからこそ、こんな小さな鎮守府でも大掛かりな部隊を編成出来る。
(まぁ今は、まだ弱小だけど)

その想いに呼応するように彼女は続けた。
「ただ美保には貴重な戦艦と正規空母の着任ですから、それなりの『心の準備』は必要かと思います」
「なるほどね」

(心の準備か。それは必要かもしれない)
ここでは唯一の戦艦、山城さんですら、あの勢いだからな。

「それに」
祥高さんは何かを思い出したように付け加える。

「燃料、いえ艦娘たちの食料消費量は彼女たちの設計艦種本来の排水量に比例する傾向があります」
「あ?」
予想外の内容に私はバカみたいな反応をした。

だが彼女は表情を変えずに続けた。
「つまり艦娘たちの背丈が同じであっても艦種……たとえば駆逐艦よりは巡洋艦、あるいは戦艦や空母など、本来の分類に従って『燃費』や『必要資材』が増える傾向にあるということです」
「なるほど」

私は祥高さんを改めて見詰めた。
「君は、この駆逐艦寛代よりは大食いなワケだ」

そう言った直後に私は『しまった』と思った。いくら相手が艦娘とはいえ、この発言は拙かった。もし相手が人間の女性なら絶対に嫌われるだろう。

 だが意外にも彼女は普通に微笑んだ。
「そうですね……寛代ちゃんよりは食べますけど。大食いかどうか」

その落ち着いた反応にはホッとするやら冷や汗が出るやら。
(相手艦娘。単なる機械ではないが人間でもない)

そんな自分を顧(かえり)みる。
(私は何を焦っているのだろうか?)

さきの大淀さんや寛代、それにあの山城さんだって単なる機械的な反応だけではない深い感情の動きを感じるのだ。
(やり難い)

それに祥高さんだ。
(やれやれ、艦娘が単なる戦闘機械なら気が楽なのだが)

 今の反応のように他の艦娘たちに比べると彼女自身は、さほど感情が突出することも少なく落ち着いている。だが静かな彼女にも機械的に書き込まれた法則性ではない、何か『人間らしさ』を感じるのだ。
(つくづく艦娘は分からないことだらけだ)

「しかし戦艦に正規空母とは……本省の役人は、ここで観艦式でもするつもりか?」
私はボヤいた。

祥高さんは別紙に気付いたように、つけ加えた。
「スミマセン、追加電文で艦名表記がありました。空母は『赤城』で戦艦は『比叡』です」
「なんだ? 一航戦に高速戦艦まで来るのか」

私は思わず呟いた。
「やっぱり観艦式……決定だな」

寛代が不思議そうに、こちらを見上げていた。


以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第20話(改1.3)<暗号と艦娘>
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・ハメ, (初稿)2015 (改1.3)2019/06/17挿絵あり
・tinami, (改) 2017/03/18 (改1.3)2019/06/17
・pixiv, 初稿:2015年7月 (改1.3)2019/06/17
・暁 ,初稿:2017年03月 (改1.3)2019/06/17
・サイト: 2019/06/30

PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。