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第1部本編:21話〜




第21話(改1.5)<白い傷>



「赤城を助けたって言うのは本当ですか?」

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マイ「艦これ」(みほちん)
 :第21話(改1.5)<白い傷>
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 祥高さんは続ける。
「司令、もう一点ございます」

「ん?」
私は何気なく振り返る。

「二式大艇が本省から舞鶴に寄るのは視察団に現地の作戦参謀も加わる為……とあります」
「舞鶴?」
何気なく呟いた私は血の気が引く思いだった。

だが敏感な祥高さんは、すぐに気がついたようだ。
「司令、顔色が優れませんが」

「いや何でもない」
慌てて否定したが直ぐ側にいる寛代まで、こちらを見上げていた。

……いやテーブル近くにいた艦娘たちまでが軒並み、私を注目しているようだ。
(お前ら感度高過ぎっ!)

その状況で私は艦娘に責められているような感覚に襲われたのだ。

「……済まん、気分が優れないので執務室へ戻る」
言うなり席を立った。

「司令ぇ、退却ぅ」
悪気は無いのだろうが島風の『ひと言』が胸に突き刺さった。逃げるように食堂を後にした私は2階への階段を駆け上がった。

だが気分が悪いのに走ったせいで頭がクラクラし始めた。

やっとのことで執務室に入った私は重い足取りで制帽を机に投げ出すと、ため息と共に自席に深く腰を掛けた。
「はぁ」

座ったまま、ゆっくり椅子を回転させた私は窓を向いた。窓からは緩やかな海風が流れ込む。陽の光を浴びた日本海がキラキラと輝いていた。

(今日は大山がよく見えるな)
私はボーッとしてその潮の香を浴びながら美保湾に浮かぶ大山を眺めていた。

一昨年だろうか……
(忘れもしない、あの日)

所属していた舞鶴鎮守府で私は急病の提督に代わり艦娘の指揮を執っていた。当時、敵が舞鶴への攻撃を繰り返し鎮守府の誰もが疲弊していた。

 当時の舞鶴では通常の艦艇を運用しつつ艦娘もまた多く所属していた。そして私が指揮を執った当日は大雪に強風と最悪な天候だった。にも拘らず敵の猛攻が続く。それは双方共に持久戦だった。

次第に敵の攻撃に押され我々の通常艦が撃破尽くされたのだ。そして艦娘たちが悪天候の中を出撃せざるを得なくなった。

だが艦娘は連続出撃が出来ない。人間のように休息が必要なのだ。ましてや荒天ともなれば疲労は加速度的に大きくなる。

舞鶴に所属する主軸の艦娘が次々と脱落した。結局は練度の低い駆逐艦までが駆り出された。

(あの日は酷かった……)

 そう考えたとき誰かが執務室の戸を叩いた。一瞬、たじろいだが何とか気持を落ち着けて返事をした。
「はい、どうぞ」

「あのぉ」
そう言いながら顔を出したのは青葉さんだった。

「まことに僭越(せんえつ)ながら密命を帯びて参りまして」



「はぁ?」
彼女の突拍子もない発言に私は、それまでの重苦しい空気が一気に消し飛んだ。

ひるまず青葉さんは頭に手をやりながら申し訳なさそうに言った。
「実は秘書艦より『司令の話し相手になって下さい』と命令をされまして……」
「祥高さんが?」

苦笑する蒼い髪の記者以上に私自身が困惑した。だが思慮深い秘書艦のことだ。ここは彼女の意思に沿ってみるか。

「……分かった、入れ」
「はい、ではちょっと失礼して」
再び廊下に戻った彼女は魔法瓶とお盆を手にしていた。準備の良さに感心した。

そんな私の思いを察したように彼女は照れたように言う。
「あは、これは青葉ではなくて鳳翔さんからの託(ことづ)けです」
「なるほどね」

私は彼女に応接セットへ置くように指示をした。

「はい、失礼しまぁす」
と言いながら青葉さんは、お茶の準備を進める。

「一応、オフレコという指示もありますから秘書艦以外へは一切喋りませんので、ご安心下さい」
「え? ……あぁ」
抜かりがないな。

 だが彼女が来たことで、変に精神的な深海(ふかみ)にはまりこむことを回避できたような心地だった。私は準備をする彼女の反対側のソファに腰を下ろした。

お茶を差し出しながら青葉さんは言った。
「えっとぉ、差し障りのある部分は省いて結構ですから青葉を『言葉のゴミ箱』と思ってぶっちゃけて下さい」
「あ? そう」

 私は、お茶をすすると自分の頭のなかを簡単に整理した。だがいったん消し飛んだ感情は、簡単には戻ってこない状態だった。

すると彼女は自分のお茶を注ぎながら言う。
「あのぉ、これは青葉の思い込みかも知れませんが……司令は何か私たち艦娘に対する蟠(わだかま)りがあるように感じるのですよ」

「……んっと」
(図星だ)

私は深呼吸をすると海を見ながら淡々と話し始めた。
「舞鶴に居たとき、大失敗をやらかしてね」

「あ」
青葉さんは何かを悟ったようだ。目をそらすように下を向いた。

「す……済みません」
「いや、気にしなくて良い」

私はソファの背もたれ腕を回して窓の外を見た。
「確か、後から聞いた話では当時、全国各地の鎮守府が敵の連続攻撃を受けていたらしくてね」

その言葉を受けた彼女も続けた。
「はい、えっと確かに我が国最強と言われる横須賀鎮守府でさえ敗北の一歩手前まで追い込まれていました」

青葉さんの発言が私を慰める意図があったかどうかは分からない。だが、その言葉で私は少し心が軽くなった。

「えっと」
彼女は何かを思い出すように天井を見上げた。

「そういえば、その頃って全国の鎮守府で艦娘への扱いが真っ二つに割れていた時期ですね」
「そうなのか?」
そういう事情は初耳だった。

興味を持った私に青葉さんは軽く頷く。
「はい。某80年後半から90年の初頭にかけて艦娘を人間の兵士と同様に扱う『穏健派』と、それ以下の単なる兵器として運用する『強行派』に分かれました」
「あぁ、それは今でも聞くな」

彼女はズルズルと何かが引き出されるように語り出した。
「『穏健派』は呉や横須賀に多くて、舞鶴や佐世保には『強行派』が強かったようです。んで、この強行派を陰では『ブラック鎮守府』と揶揄する人も居ました」
「へぇ」

腕を組んだ私も舞鶴を思い出した。
(そういえば舞鶴の提督や参謀は、どちらかといえば穏健派だったけど横須賀の提督は後に精神を病んで退任したと聞いたな……だから舞鶴の提督も、そのまま指揮を執っていたら危なかったかも知れない)

「……戦争に正義はない」
つい呟いた。指揮官とは自分を殺して冷徹ともいえる指示を出さなければ結局、双方が傷つくのだ。

「でも」
青葉さんは改めて私を見つめた。その瞳は艦娘独特の吸い込まれるような透明感があった。

「司令は明らかに『穏健派』ですね」
「ありがとう……と、言って良いのかな?」
「えへへ」
その笑い声で私の方の荷が、また軽くなった感じだった。不思議な子だ。

「その舞鶴で……何か」
緩んだ私の心へ何かを推し量るようにソッとした口調で問いかける彼女。それは広報記者特有の上手に引き出しを開ける感覚だが悪くはなかった。

「あぁ、当時、過労で倒れた提督に代わって私が……初めての単独指揮を執った」
「はい」
珍しく静かな相づちを打つ青葉さん。

「もはや通常鑑も壊滅、練度の高い艦娘も軒並み傷付いて私は仕方なく連度の高い軽巡と経験の浅い駆逐艦で部隊を組み出撃させることにした」
「はい」
「その軽巡は、いつになく出撃を渋っていたが私は何とか押し出した」
「冬場の日本海……ですよね」
窓の外で穏やかに輝く日本海を見つめながら彼女は呟いた。

「あぁ。普通に船を出すのもはばかられる。しかも通常艦の援護もなく艦娘だけの出撃だ」

少し間をおいて私は続けた。
「だが敵も悪天候下で次々と攻撃してくる。既に前衛艦隊が破られ放置すれば鎮守府に攻めて来そうな勢いだ。軍令部からも陸に近づけるなと指示が出て、かなり焦った。もし仮に敵が上陸でもしたら最悪の本土決戦……陸軍が出てくるだろう。軍令部は、それも嫌だったのだ」
「分かります」
「今思えば敵もギリギリの線で必死だったはずだな」
「そうですね……確かその後一時、敵のの攻撃が緩くなる期間がありました」
「そうなのか?」
「はい」

 艦娘たちが出撃してしばらくすると敵の様子が報告された。それは潜水艦を主力とした、かなり戦い慣れた部隊だった。しかも悪天候での敵の的確な射撃は明らかに高性能な電探を積んでいた。
「最初から性能が違いすぎた」
「はい」

 悪天候で無線も通じ難い。状況確認も手間取るなか経験不足の私には、すべての判断が後手に回っていた。ひとことで言えばパニック状態寸前だ。
 断片的に入る艦娘の叫び声。しかし当時の士官は構わず行けという。最初は私もそれに従っていたが良心が痛んだ。

 結局、私に撤退という考えが浮かんだときには既に戦況は手遅れだった。戦闘の結果は当然、敵の圧勝。気がつけば軽巡と駆逐艦を数隻、冬の日本海に沈めてしまった。

「ハッキリ、全滅だよ」
私は敢えて突き放すように言った。

「……」
青葉さんは黙っている。

 だが不思議なことに、その艦娘の部隊が全滅すると同時に敵は撤退したらしい。その後、天候が急に回復して索敵機を飛ばしたが……結果は変わらない。破片の浮かぶ夕暮れの日本海……現実の夕日と想像する光景が被さってゾッとする美しさが強く印象に残っている。

 その後、回復した舞鶴の提督や他の作戦参謀から激しく叱責された。もちろん通常の艦船も沈めば物的にも人的にも被害は大きい。しかし相手が艦娘となると、かなり印象が違ってくる。感情的にも後味が悪いのだ。勝ち目は無いと分かっていながら文句も言わず果敢に敵に立ち向かっていく様子は無線で逐一受信される。交戦し傷つき、やがて力尽きて沈んでいく艦娘たちの最後の叫び声……思い出したくもない。

 その苦い経験で私は決意した。もう二度と艦隊指揮はすまい……そう、一時は軍人を辞めようとまで思った。

しかし、いざ退官を相談すると
「そこまで思いつめるな、誰もが通過する道だ」
「相手が強過ぎた。仕方がない」 
と説得された。軍も人手不足だった。結局、辞めることだけは踏みとどまされた。

 それでも、以後の私は艦娘絡みの作戦からは意図的に距離を置いた。命令も固辞した。とは言うものの軍隊に居る以上、上官の命令は絶対だ。また軍隊で自分が生き残っている以上、戦歴も刻まれた。結果的に艦娘の指揮を執ることは避けられなかった。

 ただ艦娘の指揮についてはどんな陰口を叩かれようとも艦娘に無理な特攻はさせない。引き気味に指揮を執ることに徹した。わざわざ主戦場を迂回させたり沈みそうな艦娘には、すぐに他の艦娘を救援に向かわせたり。

「現場の指揮官としては、あまりやってはいけない部類だろう」
「いえいえ……」

 個人的には上層部から嫌われて評価が下がっても、またそれで左遷されたとしても別に良いだろうと思っていた。罪滅ぼしではないが「舞鶴沖海戦」以後の私は一隻も艦娘を沈めてはいない。無理な進軍もさせていない。それが果たして良いのか悪いのか?

 地方監査の際に、監察官から問われたこともある。
「君はそれで良いと思うのか?」
「はい」
「……」

私が即答したときの困惑した監察官の顔は忘れられない。彼は書類をめくりながら呟いた。
「まあ……君の戦果はソコソコだが轟沈率が低いからなあ」

このとき悟った。結局、指揮官の可否なんてブラックだろうがホワイトだろうか関係ない。自分の信じたとおりに作戦を立て、兵士がその通りに動けば結果(評価)は出るのだ。

 だが『ブラック派』からの私への風当たりは強まった。ある会議でも、休憩時間に強気の提督や参謀に言われたことがある。
「貴重な燃料のムダ遣いだ」
「時間の浪費だ」

「さすがに直接言われると凹んだ」
「でしょうね」
会議なんか途中で逃げ出してやろうかと思ったくらいだ。

 だが捨てる神あらば……だ。私のその姿を見ていたらしい『ホワイト派』の参謀数名から声を掛けられた。
「轟沈寸前の赤城を助けたって言うのは本当ですか?」
「……ああ」
「なるほど、やはり」

彼はしきりに頷く。
「直接ではないのですが、赤城と仲の良い加賀がうちに居ましてね。彼女からあなたの噂を聞くんですよ」

 すると別の参謀が感心する。
「艦娘のまた聞きで褒められるとは、スゴイですね」

「いや……」
私は苦笑した。

すると別の参謀が言う。
「うちの比叡も自沈を免れたって……美保鎮守府のことをよく言ってますよ」

「恐縮です」
このとき悟ったのは艦娘の横の繋がりも意外に広いことだった。

 そのことを実感するようになるのは、いつの間にか私に『艦娘と相性の良い指揮官』というあだ名が付いたことだ。私自身にはそんな意識はなかったが。

「気が付けば、とうとう美保鎮守府の司令に納まってしまった」
「ですねぇ」
青葉さんも微笑んだ。

「しかし鎮守府の司令官とはいえ地方の不便な山陰だ。だから私は『これは降格人事(左遷)か?』と疑っている」
「はぁ」
彼女は苦笑していた。

正直言うと艦娘の指揮からは逃げたいが軍人である以上は仕方が無い。

 窓からは湾の海風が優しく吹き込んでいた。いつの間に日が高くなり美保湾はキラキラと輝きだしていた。


以下魔除け
Reproduction is prohibited.
禁止私自轉載、加工 天安門事件
Prohibida la reproduccion no autorizada.


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第21話(改1.5)<白い傷>
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・ハメ,  (初稿)2015年ごろ初稿が完成。
    改1.5(加筆改訂:イラスト有) 2019/08/14
・tinami,No.899582 初稿:17/04/01 UP 2019/08/14
・pixiv,「3頁目」初稿:2015年7月7日 UP 2019/08/14
・暁 ,初稿:2017年 03月29日 UP 2019/08/14

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第22話(改1.5)<艦娘と変化>


「他人の評価は、すべてじゃありませんし」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第22話(改1.5)<艦娘と変化>
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「やれやれ」
私は大きく両腕を上に伸ばした。

「せっかくの晴天だ。外に出ようか」
「そうですね」
青葉さんも頷(うなづ)いた。

 私は内線で、二人で外に出る旨を伝えると制帽を被って執務室を出た。
日本海の波が反射した光に満ちた廊下は万華鏡のようにキラキラしていた。

 ここは小さな鎮守府なので執務室のある建物を出ると直ぐに海に面した埠頭である。やや離れた海上で訓練をしている艦娘たちの姿が見える以外は閑散としていた。

私たちは植え込みと埠頭の境目にあるベンチに並んで腰掛けた。
「夏の日本海は静かだな」
「そうですね」

軽く制帽を被り直しながら聞いてみた。
「君の知る範囲で私のウワサって、何か聞いてるか?」

「え? 司令官の噂……ですか」
青葉さんは大きな瞳で私を見詰めながら言った。

「えっと、もちろん知ってますケド」
何か奥歯に物が挟まったような言い方だった。

「オフレコだろ? 遠慮なく言い給え」
情報通の彼女なら、いろいろ知っているだろうと私は思ったのだ。

 埠頭で穏やかに打ち寄せる波の音。

一瞬、間があってから決意したように立ち上がった彼女。手を後ろに組み埠頭にゆっくり踏み出しながら答えた。

「えっと……『海軍一の弱腰』『舞鶴の負け犬』『回り道太郎……』」
途中から指を折って数えていた青葉さん。私は脱力してベンチから、ずり落ちそうになった。

振り返った彼女を私は手で制した。

「さすが記者だな」
苦笑いした。

「よく出るものだ」
「あ、いやぁ……」
ばつが悪そうに後頭部に手をやって苦笑いする青葉さん。

「いいよ、ありがとう……正直、頭が痛いね」
私は大きな、ため息をついた。

「同情します……でも」
再び海のほうに顔を向けた彼女は言った。

「これって普通の海軍さんの大まかなご意見ですし」
水面(みなも)を見つめた青葉さんの上半身がキラキラと浮き上がる。

「他人の評価は、すべてじゃありませんし」
「そうだと良いが」
肩をすくめた私。記者もまた静かに微笑む。彼女の青い髪の毛が風に揺れていた。

 轟音を響かせた多数の戦闘機が空軍美保基地から飛び立つのが見えた。

「ゼロ式か。今日は空軍も忙しいな」
青い空と大山(だいせん)を背景に機体が太陽光を反射させている。

 手かざしで同じ方向を見ていた青葉さんは言った。
「そういえば先ほど対空機銃を積んだ陸軍の車が産業道路を何台も移動していましたっけ」

そして獲物を見つけたような顔になった。
「これはニュースになりますね!」
{


首を傾けながら悪戯(いたずら)っぽく笑う彼女。この好奇心の強さは鎮守府一番だろう。

「あ」
急に反応する青葉さん。何かを受信したらしい。

「司令官、秘書艦より『作戦司令部までお越し下さい』との伝言をお預かりしました」
「分かった」
心地よい潮風を浴びながら敬礼した私は彼女と分かれて作戦司令部へと向かった。

「お待ちしていました」
部屋に入ると秘書艦が待機していた。お互いに軽く敬礼をしてから私は椅子に腰掛けた。

彼女は手にした暗号解読文を見ながら報告する。
「艦隊司令部から今夜20:00より全軍、臨戦態勢をとるようにとの電文が着ています」
「なるほど」

続けて別の用箋鋏みを見た祥高さんは言った。
「ですが電報では美保空軍基地への陸攻の着陸時間を伝える内容が朝一度、着たきりです」
「陸攻?」

壁際の通信機前に駆逐艦の寛代が居た。先ほどから盛んに何かを傍受している。その隣には当直明けの大淀さん。
(まだ粘っていたのか)

そんな彼女もまた振り返りつつ報告をした。
「今朝は空軍からも高尾電探施設の情報を逐一、提供されてます」
「空軍が?」

思わず声が出た。
「こりゃ、きっと明日は雪だぞ」

苦笑した私の言葉に、その場の艦娘たちも頷いていた。

 改めて祥高さんが確認する。
「司令、今夜20:00から全軍『臨戦待機』ということで各班に通達して宜しいでしょうか?」
「そうしてくれ」

その言葉に頷く秘書艦と大淀さん。

(上の連中は何か敵の情報を掴んでいるのか?)
そこまでは分からないが、一連の動きは尋常ではない。

 雰囲気を察したのか待機中の各班から自主訓練の許可が次々と入りじめる。ほどなくして鎮守府上空では前にも増して艦娘たちの訓練機が盛んに飛び交うのだった。

(訓練する艦娘の姿は頼もしい)
私も鎮守府の慌ただしい雰囲気は嫌いではない。防人(さきもり)の血が騒ぐのだ。

 そもそも私の父親は空軍の操縦士(パイロット)だった。わが家系と艦娘は志を同じくする同志なのだ。一つの鎮守府に所属し同じ釜の飯を食べる。一致団結して同じ敵に立ち向かうのだ。

「同じ仲間か……」
そこでふと思った。今まで私は何を肩肘張っていたのだろうか?

(別に私が無理に構えることもない)
そう思うと気持ちが軽くなった。青葉さんと話したのも良かったのだろう。

 私の小さな変化を察知したのか? ……気が付くと寛代が大きな瞳で、こちらを見ていた。

(微笑んでるのかい? 寛代)
ちょっと焦った。

(この艦娘も、ときどき私の心を見透かすように、こっちを見る)
その黒髪に窓からの光が反射していた。

(彼女の表情は初めて出会った防空壕の時よりも、いくらか明るくなったな)
そう思った。

 緩やかに腕を組んだ私は窓の外を見ながら言った。
「美保鎮守府も少しずつ変わっていくのかな?」

その言葉で作戦司令部の空気が少し緩んだ気がした。外からは訓練機のエンジン音が断続的に続いていた。


以下魔除け
Reproduction is prohibited.
禁止私自轉載、加工 天安門事件
Prohibida la reproduccion no autorizada.


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第22話(改1.5)<艦娘と変化>
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・ハメ,(初稿)2015年8月ごろ完成。
       (改1.5)(加筆改訂:挿絵有り)2019/12/14
・tinami,No.899884初稿:2017年 (改1.5)(加筆改訂)2019/12/14
・pixiv,初稿:2015年7月ごろ.(改1)2017年4月ごろ
       (改1.5)2019/12/14
・暁 ,初稿:[公]2017年03月31日 (改1.5) 2019/12/14
・PCサイト(スマホ)2019/12/28


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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。