心理療法の紹介
■心理療法の紹介
1.力動的心理療法
「精神分析」のジークムント・フロイトに始まる「力動的心理療法」は100年以上の歴史のある伝統的な心理療法です。
この方法では相談者(クライアント)は、完全に秘密の守られる静かな部屋で、セラピストに対して何でも自由に話すことができます。人には言えない悩みや人間関係上の不満やトラブル、何でも自由に表現してかまいません。セラピストは安心できる雰囲気づくりに努め、相談者の感情に共感しつつ、できるだけその内容を正確に理解して、相談者にフィードバックします。その際、常識的判断から相談者を非難したり、教化したりはしません。ここが一般社会の人間関係とは異なる、心理療法独特の関係です。
2.感情の発散と心の開放
家族や友人にも言えずに一人で抱え込んでいる悩みや、日常生活でうつ積している苛立ちや人間関係での不満などを心理療法の場で吐き出すと、気分がさっぱりします。これを「カタルシス」(浄化)といいます。ストレスの多い現代社会では、誰もがおおかれ少なかれ精神的ストレスを抱え込んでいますが、こうした感情の発散を繰り返すことで、ストレスが解消され、心が開放されてゆきます。
3.自分自身への新たな気づき
自由な感情の表現を繰り返すうちに、それまで気づかなかった自分の意外な性格や願望、過去の外傷体験、他人に対する見方、社会への先入観などに気づいてゆきます。これを「洞察」といいます。例えば、自分は周囲の人から好意をもたれないと思い込んでいた人が、実は反対に自分が周囲の人々を拒絶していたという場合もありますし、親の愛情が乏しいと感じていた人が、実は親に対して過剰な甘えを持っている場合、また常に自分の能力に劣等感を感じている人が、実は高すぎる理想像を持ちつづけているという場合等、様々な面での「気づき」が起こってきます。
4.対人関係能力の向上
自分自身や他人についての歪んだイメージが修正され、自分の感情を適切に受け入れられるようになると、自信が生まれます。それは対人関係の面に最もよく現われます。相手の感情や考え方をより現実的に理解し、自身を持って接することもできるようになります。過度に緊張しすぎたり、邪推したりすることが減りますので、相手に対する寛容さや自己主張がしやすくなり、対人関係がよりスムースになってゆきます。心理療法が進展した場合、最も顕著に見られる変化は、この対人関係能力の向上です。
こうした対人関係の改善は更なる自信にもつながり、問題を自らの力で解決できる「自律性」を増し、自己実現の能力を高めます。要するに心理療法はその人の人格的成長を図って、様々な人生の課題への対処能力を増強する方法といえます。
■心理療法の対象者
心理療法は内容別に「一般的相談」と「臨床的相談」に分けられます。
1.一般的相談
都会生活はどうしても孤立しがちで、何か悩みがあっても相談相手がいない人が多く見受けられます。誰かと話をすればすぐに解消できる問題でも、誰にも言えず、一人悶々としている人も少なくないでしょう。最初は小さな問題でも、時が経つにつれて次第に深刻になる場合もあります。なるべく「悪い芽は早く摘む」必要があります。これは心の病に限らず、夫婦関係でも、親子関係でも、職場の人間関係でも、学校の進路問題でも同じことです。夫婦関係で言えば、最初はちょっとしたコミュニケーション不足が、次第に気まずい関係となり、結局は離婚にまで発展するというケースがあります。この場合、コミュニケーション不足の段階で手を打っていれは離婚にまで発展しなかったかもしれません。親子関係でも親子間の距離のとり方がうまく行かず、次第に家庭内暴力や家出に結びつくケースもあります。この場合も、親子間の距離のとり方に気をつければ、そうした深刻な事態は避けられたかもしれません。心理カウンセリングはぜひ問題が深刻化する前に、ごく早い段階でもご利用ください。「転ばぬ先の杖」で、問題が小さいうちに解決しておくことがこつですので、上手に心理カウンセリングを利用してください。
また、専門職や職場で責任ある地位にあり、立場上本音を話すことができずにストレスを溜め込んでいる方々も多くおられます。そうした方々にとっても心理カウンセリングはストレス発散の場として適しています。アメリカでは多忙なビジネスマンや芸術家などが、精神的健康の保持とストレス解消のために心理カウンセリングをよく利用しています。当心理療法センターでもそうした形で利用される方々も少なからずおられます。
心身症でも生活習慣病でも、不眠症やうつ病でも大抵は「ストレス」の蓄積が原因となって起こる場合が多く見られます。そしてこの場合のストレスは、人間関係から生じる心理・社会的ストレスが最も大きな割合を占めています。つまり、この人間関係から起こるストレスにどのように向き合って、処理していくかが、精神的健康を保つ上で大変重要になります。心理療法は、人間関係上の問題を処理し、対人関係能力を向上させるのに適した方法です。精神的健康の保持やストレス障害の予防といった面からの心理カウンセリングについてもお気軽にご相談ください。
2.臨床的相談
何らかの精神症状を持つ方々に対する心理療法を行います。クリニックや心理療法センターなどを訪れる方々の持つ精神的問題は実に様々ですが、大きく分けて(1)適応障害、(2)神経症、(3)人格障害、(4)精神的疾患の4つに分類されます。こうした障害のケアには、伝統的に、薬物療法と心理療法が用いられます。どちらを主に用いるかは、その障害の内容によって異なりますが、いずれにしても、心のケアのためには、心理療法と薬物療法は車の両輪です。当心理療法センターでは薬剤処方を受けておられる方には、主治医の先生との緊密な連携の下に心理療法を進めてゆきます。