症状別の心理療法
■人格障害
理由もなく落ち込んだり、いらついたり、不安になったりして、自分がひどく悩んだり、他の人を悩ませたりする行動が繰り返し見られるような場合に、人格障害の可能性があります。例えば、人間関係に過敏すぎたり、並外れて感情が不安定であったり、反社会的行動が目立ったりするような場合です。最近こうした人々が増えてきています。
その代表的なものである「境界性人格障害」は思春期以降に表面化することが多く女性に多いとされています。相手のちょっとした言葉や態度から見捨てられたと思い込み、大げんかになったり、パニック状態に陥り、周囲の人々を巻き込んで大きな騒ぎを起こすこともあります。自分の手首を切る(リスト・カット)や向精神薬を大量に飲んで自殺未遂を起こしたり、過食嘔吐や浪費癖、行きずりの性交渉などもみられます。そうした行動の背景には、慢性的な空虚感があり、それを埋めるための行動とも言われています。自己イメージや他者イメージが不安定なため、常に対人関係で動揺を起こしやすく、リスト・カットや自殺未遂なども、周囲の関心を集めるための手段の場合もあります。原因としては、乳幼児時期の溺愛や過保護、虐待や育児放棄といった、母子関係の歪みから生じた、人格の未成熟さが指摘されています。
治療は、薬物療法として抗不安薬や抑うつ薬などが使われますが、人格の未熟さが主な原因ですので、心理療法が不可欠とされています。心理療法では基本的には母親との関係が不安定であったため、他人に対する安定した「愛着」を形成できなかったのですから、セラピストはクライアントの「愛着」を育てる方向で援助します。健康な母子関係の欠如からくる幼児的な感情や行動も受容的に受け止め、少しずつ自立心を育てて行きます。セラピストが安定した依存対象としての役割を果たすことで、クライアントの安心感が芽生え現実の人間関係も安定化する方向に向かいます。不安定な人間関係が再現されて困難な治療になることが多いものですが、セラピストとの長期にわたる継続的な関わりが、人格の未熟な面の発達に、大きな意味をもちます。
この他にも人格障害には、自己愛人格障害、依存性人格障害、演技性人格障害など色々なものがありますが、いずれも人格の未熟性と関連がありますので、人格の育成を中心とした心理療法を行ってゆきます。