朝目覚めると、ニューヨークは雨がふっていた。
今日はN.Yの街角で篆刻パフォーマンスをする予定だったので、雨がふれば出来ない。
こればっかりはオテント様頼みなのでちょっとがっかりする。
でも日本みたいに1日中降り続けることは案外少ないし、なんとかなるだろうと思って準備をする。
法被を着て、手拭いをかぶり、横笛を持ち、篆刻(てんこく)の道具を持って出来上りだ。
まずバッテリーパークに行ってみた。ここはマンハッタンの一番南の公園で、自由の女神に行くフェリーが出ていて、いつも観光客で混雑している。
あんまり人がいなかったので、横笛を持って早速人集めに入る。
自由の女神が見える海を後ろにして笛を吹きはじめたその時!斜前にいたバイオリンを弾いている黒人のおっちゃんがすごい大きな音でバイオリンの早弾きをはじめた!
それを見ていた右となりのスチールドラムを演奏していたニイチャンも、ドラムを思いきり叩いてこちらをちらちら見ている!
自分達の縄張りにヘンなニホンジンが来たので対抗しているのだ!
もともと負けず嫌いの性格で、挑戦をされれば絶対に勝ってやる!と思うタイプの単純構造だから、がぜん張り切ってしまった!
横笛を口にあて、すごい勢いで吹き出した。
勢い込み過ぎて音がなかなか出て来ない。
横笛はケーナやフルートと一緒で、音を出すのに微妙な息加減があり、強く吹けば大きい音が出ると言うものでは無い。
それでも遠い外国でニホンジンが挑戦を受けているのにアメリカに負けてなるものか!と急に愛国心に燃える日本人になってしまった!ところがここに誤算があった。
笛は息を使って吹くものだから、長い時間吹いていると息切れがして、酸欠状態になって頭がフラフラになる。
それにひきかえ、バイオリンやスチールドラムは体力の続く限り演奏していられる。勝負は酸欠になった、たぬきマンのまけで終わった。
ぜいぜい言って横を見るとバイオリンがこっちを見てフン!と笑っている。スチールドラムもザマアミロみたいな顔をしてあごを上げている。
く、くやしー!
たぬきマンはオトナだから笑ってその場を去ったが、今度来た時は和太鼓を持って来て体力が続く限り叩き続けてやる!と密かに思った。午後にワシントンスクエアに行ってみた。
ニューヨーク大学が近くにあり若者で賑わっている。
ちょうど良いテーブルがありストリート篆刻をはじめた。何人かが集まって来る。5〜6本彫ったところで雨が降り出した。
あわてて荷物をまとめて地下鉄の駅に走る。
いや〜今日はついてないな、こんな日もあるさ。と思い場所を移す。
外でハンコを彫るのは、たくさんリスクがある。天候もそうだが、場所の安全性は特に海外では重要だ。
どこの街にも悪いやつは必ずいて、自分の身を守るのが一番重要だ。
でも、いろいろな嫌な事がたくさんあっても、それを補ってあまりある魅力がストリート篆刻にはある。
自分の彫刻のウデが篆刻を何も知らない海外でどこ迄通じるか、また日本の文字の美しさを外国人にわかってもらいたいという気持ちがたぬきマンを海外に連れ出すのだ。
このごろやっと旅行費用ぐらい稼げるようになったけれど、自分のライフワークになれば良いな、と思っている。このエッセイの表題の最初のところにある、丸いお金みたいなものは「トークン」といって、NYの地下鉄に乗るためのメダルです。
10年前迄は丸くて1個1ドルだったのが、真中に穴が空いて1ドル50セントに値上がりした。
これ1個でマンハッタンの地下鉄ならどこでもいけるし、NYへ行ったら話の種に買ってくると良いおみやげになります。雨降りじゃあしょうがないと、ホテルに帰って来て
部屋でふて腐れていたら、五番街からタイムズスクエアーあたりをうろついていた、ヒロタジマが帰って来た。「たぬきマン、すげーな!やっぱりニューヨークだよな!」
「なにかあったのか?」
「五番街にいったら、「俺はエイズだ」、て書いた段ボールをもって寝ているぼろぼろの奴がいてだれもそいつを見ようともしないんだ!」
「明日は我が身だからおれたちも気をつけようぜ。ヒロタジマ。」
「明日がどうなるかわからないから何かおいしいものを食べに行こう!」アッパーイーストサイドにある「トロアジャン」というレストランが名前が良かったのでそこに行く事にした。
アッパーイーストサイドはヤッピーたちが集う高級店がたくさんある。
電話で予約を入れて、アルマーニのネクタイをしてお出かけだ。
「トロアジャン」はE.79th St.のメトロポリタン美術館のちかくにあった。入り口が小さく中もこじんまりとした落ち着いたフランス料理店だ。
テーブルに案内される。左隣は35才ぐらいのカップルで、右隣は男1人と女2人のグループでフランス人らしい。
ウエイターが来たので早速オーダーをする。
「ボクタチハ、サカナリョウリネ。わいんノリストヲミセテネ」
ワインリストを見てシャブリの良いのがあったのでヒロタジマに聞く。
「これでいいかな?」
「たぬきマン、高くないかこのシャブリ」
「まあいーじゃないか、NY最後の夜だし、エイズの浮浪者見たし、奮発しようぜ」
「コノしゃぶりヲクダサイ。」
ウエイター「Oh! Good Choice!」
「みろ、ヒロタジマ!ウエイターがGood Choiceていったぜ!おれのワインの知識が素晴らしいので思わず誉めてしまったのさ!
やはり世界をまたにかけて活躍しているたぬちゃんのステイタスがわかったんだな。」
「お前はバカだな。ウエイターが言ったGood Choiceてのは、バカな客が高いワイン頼んだから、この店にとってGood Choice ていったんだよ。」
「、、、、。」料理が出て来て驚いた。
スープでも魚料理でも、普通に食べる量の3倍はある!
昨日のカーネギーデリのパストラミサンドイッチには驚いたが、あれは名物料理で、こんな高級店で半端じゃない量の料理が出てくるとは思わなかった。
横を見ると細いスタイルの良い女性が、すごい量の料理を平然と平らげている。こりゃあ戦争に負けた訳だ!こんなに毎日食ってれば元気もあって自信もできるだろうな。
アメリカが自分のセオリーを相手国に押し付けるのは食べ物の量のせいだったんだ!食事が進み、ワインをだいぶ飲んだら気持ち良くなってしまった。ヒロタジマも酔ったらしく、だいぶ口がほぐれてくる。
「たぬきマン、隣の3人組が何を言っているか通訳してやろうか。」
「だってフランス語だぜ、ヒロタジマにわかるのか。」
隣の3人組はフランス語でがなりたてていてかなりうるさい。
「何を言っているんだ。俺は実はフランス人の血が流れているんだ。」
なにをバカな事を、と思ったがヒロタジマは若い頃フランスをふらふらしていた時期があり、戸川マサ子のシャンソンバー「蒼い部屋」で中年のオカマにいっしょにフランスに行かないか、と誘われた経験がある。
「じゃあ訳してみろよ。」
「いいか」「ねえジャン今日の会社の専務、嫌らしかったのよ、私を誘ってくるのよ。わたしあいつが大嫌いなのに全然わかっていないみたい。」「それは嫌な経験をしたねフランシーヌ、そういう時は僕の顔を思い出してくれ。僕はいつでも君の事を思っているよ。」
「ここの鳥料理はおいしいわね、もう3羽めよ。まだ入るわ。」
「Oh!ジャクリーン、君は良く食べるね、そこが君の魅力なんだけどね!」ヒロタジマが、隣の会話にあわせて、ほんとかどうかわからない同時通訳をする。それがこんな事言っているんじゃないかな、と思える絶妙の通訳で笑いが止まらなくなってしまった。
ヒロタジマは市役所にいると、めだたない中年ジジイだが、こういう事をやらすと素晴らしい才能を発揮する。
たぬきマンがあまり笑うので、さすがに隣が気づいた。それをまたヒロタジマが通訳する。「ねえ、ジャン、となりの日本人ちょっと変じゃない?さっきから私達のこと喋っているような気がするの。」
「うん、ぼくもそんな気がしていたんだ。ヒゲのニホンジンがやけに笑っているし、もしかしたら僕達のSEXライフを妬んで変な事をいっているんじゃないかな。」
「あらジャンあなたの(ピー”検閲”)はとってもステキよ。うふ、ふ。」
「この鳥は美味しいわ、もう6羽めよ!」不審に思いながら3人組は先に帰っていった。
「たいしたものだな、ヒロタジマ。芸人になった方が良かったんじゃないか」
ヒロタジマは何も言わずに笑っている。
あ〜、ヒロタジマとNYに来て良かった!と、その時思った。次の日、ノースウエストでニューヨークをあとにした。
心踊る冒険の後は、退屈な日常がまっている。ヒロタジマはジミ−タジマにもどるし、たぬきマンも留守にしてたまっている仕事をかたずける毎日だ。
でも、またいつの日かココロの中の「ドラゴン」が羽ばたきそうになったら、また新しい冒険にでかけるだろう!
でもその前に家の「ウツクシイ奥様」の御機嫌をとっておかないといけないね。
は、は、は!それでは!長く、つまらないエッセイを読んで戴いてありがとうございます!
「たぬきマンニューヨークに行く!」は今回が最終回です。
また新しいストリートパフォーマンスを、お楽しみに。それでは、See You!
次回は「たぬきマン、オーストラリアに行く!」が始まります。 たぬきマンがオーストラリア、パースで篆刻(てんこく)のライヴパフォーマンスをします。 おたのしみに! |
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