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  1. 異型腺種様過形成(AAH)とその病理組織の特徴
  2. 創傷治癒とサイトカイン
  3. 原発性肺癌:扁平上皮癌の病理組織の特徴
  4. 胸部X線の見方
  5. 鉄欠乏性貧血の治療
  6. Hugh−Jones分類
  7. 胸腔ドレーン抜去法
  8. ステロイドとその力価
  9. 食道癌の肺転移における長期予後について
  10. 肺癌診療における腫瘍マーカー

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研修医宿題

創傷治癒とサイトカイン


原田 憲一

組織が損傷を受けると止血と炎症から始まる極めて複雑な一連の生体反応が起こるが、その治癒にいたるまでの過程を創傷治癒という。一般に創傷治癒過程は大きく3期(炎症期inflammatory stage、細胞浸潤期proliferative stage、再形成期remodeling stage)に分けられ、それぞれoverlapし、治癒過程終了には幾月もの歳月を要する。いまだ不明な点が多いが、この過程には増殖因子を始めとした多くのサイトカインが複雑かつ多用に関与し、いわゆるサイトカインネットワークを形成して、極めて重要な役割を果たしていると考えられている。

 炎症期は組織損傷による出血、血小板凝集とそれに伴う血小板内顆粒からの増殖因子の放出により惹起され数時間続く。この増殖因子には血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍化増殖因子(TGF-β)、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF)等が含まれ、好中球、マクロファージなどの炎症細胞や線維芽細胞の走化や遊走の因子となり、損傷部位にこれらの細胞を誘導し活性化あるいは増殖を促進させる。また、同時に血小板はリン脂質である血小板活性化因子(PAF)を産生し、好中球、マクロファージを損傷部位に誘導する。局所のマクロファージもまた損傷により活性化され、インターロイキン(IL-1,IL-6,IL-8),TNF-α等のいわゆる炎症性サイトカインを産生し、炎症性細胞の遊走を促進する。一方、血小板凝集により凝固系が刺激され局所にフィブリン網が形成されるが、このフィブリン網形成に関与するフィブリノーゲン、トロンビン、血液凝固第?因子等も炎症性細胞、線維芽細胞の遊走、増殖を促進する。

 局所への好中球の遊走は、好中球の血管内皮への接着、アメーバー様運動による血管外への遊走により行なわれる。この際、内皮細胞への接着には好中球上皮及び内皮細胞上での接着因子の発現が必要であり、好中球に対してはIL-8、内皮細胞に対してはIL-1,TNF-αが関与している。また、アメーバ様運動による血管外への遊走に関してはにIL-1,IL-6,PDGFが関与する。 活性化マクロファージは、増殖因子を始めとする多くのサイトカインを産生し続け、炎症期のみならず次の細胞浸潤期においても様々な活性を示す。それゆえ創傷治癒過程の進行における役割は非常に多彩であり最も重要な細胞と考えられる。 活性化マクロファージはTGF-β,IGF,マクロファージ由来増殖因子(MDGF),線維芽細胞増殖因子(FGF)等を産生し、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞等を遊走させ、これらの細胞は局所で増殖して細胞浸潤期形成し、数週間続く。これらの細胞はさらに増殖因子を産生し増殖しつつ、この時期の主な治癒過程である線維芽細胞による細胞外基質の形成、I型、II型コラーゲン産生、血管新生を行う。線維芽細胞による細胞外基質の形成及びコラーゲン産生に関して、最近ではT細胞や肥満細胞より産生されるIL-4の線維芽細胞の増殖、活性化への関与が報告されている。

一方、細胞浸潤期には炎症期に形成されたフィブリン網に対する線維素融解が行なわれる。この過程には、コラゲナーゼ等のプロテアーゼや組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)により形成されたプラスミンにより行なわれるが、これらの産生もマクロファージ、血管内皮細胞等の浸潤細胞により行なわれる。 上記の細胞浸潤期が終わると、治癒過程は再形成期に移り、数ヶ月続く。この時期には増殖因子の活性化は減少し、損傷部位は、規則的に配列されたコラーゲンと期質、血管線維芽細胞からなる線維化組織となりやがて瘢痕化し治癒に向かう。

May 30, 2002

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