研修医宿題
胸部X線の見方
原田 憲一
1 まず離れて見る
何事に関してもそうであるが、まず全体像を把握することが大切である。外来で患者さんを診察する時もまず全体の雰囲気(太っているのかやせているのか、顔色はどうか、しゃべり方は?)をつかむことが重要である。アメリカのエール大学では医学部の授業で絵画を観る授業があるそうであるが、これは全体像を捉えてから細部をみるという訓練であるらしい。絵画には細かいところにいろいろな意味合いが隠されているものが多いがそこに目をつけるよりも、その絵がなんの絵なのかを知ることが当然先であろう。というわけで、5歩離れて画像を見る。
2 黒化度が読むに適しているか判断する
カメラの写真を見る時、被写体はより鮮明に写っている方が良い写真であろう。それと同じ様にX線においてもより鮮鋭に写っている方が良い画像である。肋骨だけが鮮鋭に写っていたり、血管陰影が写っていなかったりするのはダメな写真である。下行大動脈、縦隔、肋骨、鎖骨、肺血管が相互に妨害することなく適切な濃度さとして重なり合って投影されている画像であることを確認しなければならない。高圧撮影はこのために存在する。高圧(120-140kV)の管電圧で撮影したものは低圧(90-110kV)で撮影したものより情報量が多く肺野も判明しやすい。黒化度が適しているかどうかを調べるにはどうすればいいのであろうか。それは、前述の遠くから全体を見たり、フィルムの端の画像が映っていないところの後ろに指を入れて指の輪郭がはっきりとわからないことで確認する。
3 得たい情報は全て含まれているか把握する
例えば、挿管のときには気管支の声門狭窄の有無が知りたい。このとき、肺野はしっかり写っているが声門部が写っていなければ意味がない。
4 立位か背臥位のどちらで撮られたものかを把握する
立位では胃泡が左横隔膜下にあり、気体液面像が見られることが多い。背臥位では肩甲骨内側面縁が肺野の中央に投影されやすい。背臥位ではフィルム焦点間距離が短く心臓が拡大されて写る。背臥位では第1、第2肋骨が交叉する外点を結んだ線の上方に肺尖部部の肺が投影されやすいのに対して、立位では通常投影されない。
5 胸郭の変形はないかを読む
胸郭外縁を追っていき胸郭の変形の有無を調べる。さらに、肺野の縦径が何椎体分かを測る。10.5椎体以上なら肺に気腫性変化が起こっていることを示している。
6 肺の血管陰影は十分に投影されているかを読む
肺の動静脈陰影を解剖学的に読む。
7 気管・気管分岐を読む
主気管支の偏位、声門狭窄の有無、声門の横径、気管支の分岐角度、分岐の異常右気管傍線、右気管傍線の下端付近から認められる奇静脈弓、左右肺の上葉が接するために描出される前・後接合線(anterior/posterior junction line)、それらが2辺をなす前・後縦隔三角(anterior/posterior mediastinal triangle)などを調べる。
8 心陰影・大動脈、静脈の走行・横隔膜を読む
心陰影左第1、第2、右第1〜第4弓、大動脈弓部、下行大動脈の走行、肋骨横隔膜角(costophrenic angle)、心臓横隔膜角(cardiophrenic angle)、横隔膜の挙上の有無を読む。
9 肋骨・胸骨・胸椎を読む
肋骨侵触像(rib notching)、石灰化、骨折による仮骨形成、胸骨奇形、胸椎の弯曲、圧迫骨折の有無を読む
10 ここでようやく肺野をやっと読む(読める)
(参考文献・図書)
1) 片山 仁、大澤 忠、大場 覚:胸部X線写真のABC
2) 鈴木 明、松山智治、西脇 裕:肺癌X線診断ハンドブック
May 14, 2002
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