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  1. 異型腺種様過形成(AAH)とその病理組織の特徴
  2. 創傷治癒とサイトカイン
  3. 原発性肺癌:扁平上皮癌の病理組織の特徴
  4. 胸部X線の見方
  5. 鉄欠乏性貧血の治療
  6. Hugh−Jones分類
  7. 胸腔ドレーン抜去法
  8. ステロイドとその力価
  9. 食道癌の肺転移における長期予後について
  10. 肺癌診療における腫瘍マーカー

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研修医宿題

食道癌の肺転移における長期予後について


本間 幸恵

食道癌の治療法

 早期食道癌から進行癌まで幅広い進行度に対して正確な進行度診断(深達度、リンパ節及び他臓器移転診断)に基づいて治療法を選択する。

 深達度m1〜m2では、脈管侵襲(1.0〜6.5%)、リンパ節転移(0〜3.3%)ともに、ほとんど見られないので、大きさ2〜3センチくらいのものまでなら、EMRが選択できる。(EMRも内視鏡的食道粘膜切除術)。3センチを越えるケースについては、深達度を一段深く評価するべきで脈管侵襲の頻度も増加することに留意すべきであると言われている。又、ヨード不染帯の多発症例では、多発癌発生を考慮してEMR後の厳格なフォローアップ、あるいは非開胸食道抜除去術を選択し、m3〜sm1では、粘膜癌に近い性質であるが、リンパ節転移の頻度が10〜20%であり、原則的にはリンパ節郭清を伴う切除術が妥当である。EMRの標本の組織診断がm1〜sm2の場合、病巣内のごく一部に散在するm3以外では追加の治療として外科的切除か化学療法(及び放射線治療)を進めるべきであると言われている。9mm以深では進行癌と同様に、リンパ系進展に応じた系統的リンパ節郭清を伴う根治的切徐を行う。一方、既に他臓器移転を認める例や、気道との瘻孔形成例では、切除を行わず放射線治療、化学療法とバイパス術、瘻孔術、食道内挿管術などうまく組み合わせてQOLの向上を努める必要がある。例えば化学療法が有する放射線増幅効果により、放射線療法の局所コントロール効果を高め、遠隔成績向上を図るもので、ほとんどがCDDP/5−Fuで照射線量を30〜45Gyである。組織学的なCR率は17〜40%に見られ、中間生存期(12〜29カ月)、遠隔成績も術前照射単独、あるいは術前化学療法よりも良好と言われている。

肺転移(M1,stageIVb)

 神奈川県立がんセンター臨床研究所の報告によると治療前の食道癌で化学療法ないし放射線療法により完全緩解(CR)が得られた症例169例中臨床的CR106例(A群)、病理学的CR63例(B群)で、それぞれ五生率は62.4%.64.8%であり、両群とも治療前の病期による生存率に差は認められなかった。A群では化学療法ないし放射線照射の一方のみをおこなった症例に比し両者をおこなった症例の生存率が有意に高かった。A群では局所で初回再発する率は7.7%。B群で術後1年以内に死亡した12例(19%)のうち6例は術後合併症による死亡であったとの報告を得た。

また、同研究所において1987〜1995年の9年間における新患食道癌患者384例中,切除術を施行した310例の5年以上経過の遠隔成績(2001年9月)について検討した結果進行度III〜IVが78.7%を占めており,「全国登録」(1988〜1994年)の64.5%に比べて異常に高い頻度であったが,根治度II〜IIIが59%と「全国登録」の62%に近い成績を挙げており,5年累積生存率も38%と進行例が多い割には良好であったとの報告を得た。手術直接死亡率は4.5%(14/310)であったが,5年生存例91例の直接法による最小生存率は29.4%(91/310)と良好であった。5年生存例の91例中20例は死亡(他病死10例,他癌死9例,原病死1例)しており,異時性重複癌が14.3%(13/91)と非常に高率であった。このことから食道癌では5年経過例であっても重複癌のチェックが極めて重要であるとの見解を示している。

 他には、東北大学病院放射線科において1980〜1996年9月迄に放射線治療開始とされた70歳以上の食道癌の放射線治療患者298例中207例が手術以外の方法から根治的治療または対症的治療を開始されており,照射終了後の救済手術なく,根治照射により5年生存に達したものは11例であり,進行癌は男4例,女3例であった.肉眼型は螺旋型が5例,腫瘤型・鋸歯型が各1例で,螺旋型が多い傾向が認められ,放射線による治療効果は3例でCR,4例でPRであった.全体の5年粗生存率は男放射線による治療効果は3例でCR,4例でPRであった.全体の5年粗生存率は男4.8%,女10.3%,全体で5.8%で女において5年生存例の多い傾向を認めた。

 以上より、まとめると、食道癌の治療成績を向上させるため,本邦ではより徹底した切除・郭清が行われてきた。その結果,食道癌切除例の5年生存率が40〜50%にまで向上したが,同時に手術療法の限界も明らかとなった。食道癌でも広範な切除・郭清が必要ない症例,或いはその効果が期待できない症例には別の治療戦略が必要である。現在,分子生物学的検査・診断法に基づくより正確な病期診断と予後の予測,或いはセンチネルリンパ節ナビゲーション手術等による,より個別化された治療が食道癌でも試みはじめられてきた。実際放射線療法や化学療法の併用による治療成績の向上が報告されている。又,術後の良好なQOLを求めて胸腔鏡或いは腹腔鏡を用いた低侵襲手術も行われている。


July 30, 2002

 

 

 

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