■脳のメカニズムと脳機能障害■
◇脳のメカニズム◇
人間の頭脳は自らの認識によって対象を再構築してしまうので、「認識だけに頼って対象を決定すること」は、非常に危険である。
■脳のメカニズム■
『爬虫類の
脳』
- 先祖の行動を繰り返す「反復」「常同行動(ステロタイプ)」。
- 飲む・食べる・眠る・交尾に関して際限なく繰り返す機能。
『旧哺乳類の脳』
- 視床下部・海馬・大脳辺縁系/旧皮質。
- 情動行動/性行動の中枢で、下意識的な衝動や本能を司る。
- 嗅覚・体温・体液成分・食欲・体重調整・記憶・恐怖などの機能に関連する。
『新哺乳類の脳』
- 大脳の新皮質。
- イルカ・霊長類など高度に発達した部分。
- 話す・聞く・計算・創造・認知などの機能を司る。
- 「脳は大きく、大脳/脳幹(中脳・橋・延髄)/小脳/間脳に分けられる」
- ・大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉に分けられる。
- ・その内側は、大脳辺縁系、大脳基底核などに分けられる。
『前頭葉』
「脳のなかで最も人間らしい部分」とされており、大きく3つの機能に分かれる。
- 「運動機能中枢」
- ・錐体路とか錐体外路と言われる部分の出発点。
- ・ここから手足の先まで神経がのびており運動をする。
- 「運動言語中枢」
- ・発語に関しての中枢。
- ・この部分に何らかの損傷や異常がある場合、Broca失語(運動性失語症)となり話せなくなる。
- 「精神機能中枢」
- ・人間に最も必要で高次の精神機能の中枢。
- ・意志/計画性/創造性などもここで司っている。
- ・この部分に何らかの損傷や異常がある場合、人格荒廃などが見られる。
『側頭葉』
「記憶の中枢、聴覚の中枢、臭覚の中枢、感覚言語の中枢」がある。
- 「損傷と異常/脳障害」
- ・この部分に何らかの損傷や異常がある場合、それぞれ特有の脳障害が出る。
- ・感覚言語中枢に損傷や異常がある場合、Wernicke失語(感覚性失語症)となり、意味不明の言葉を発する。
以上のように、脳の中でも「前頭葉」と「側頭葉」は、非常に重要な機能を司っている。
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◇自律神経系◇
体の調子をいつもある一定の範囲内でコントロールしようとする仕組みで、無意識のうちに体のバランスを保っている。
■自律神経系■
「自律神経系は、『交感神経系』と『副交感神経系』の2つに大別される」
『交感神経』:アドレナリン物質が分泌される。ドーパミンやノルアドレナリンなども含まれる。
『副交感神経系』:交感神経系とは反対の作用を示す。アセチルコリンなどのコリン物質が分泌される。
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◇神経伝達物質/神経ペプチド◇
大脳から脊髄へ、脊髄から筋肉へ、と命令に従って情報が伝わるが、神経と神経の間はつながっていない。
■神経伝達物質/神経ペプチド■
- 神経伝達物質には、ドーパミン/ノルアドレナリン/アドレナリン/セロトニン/タウリン/グルタミン酸/アセチルコリンなどの種類に加えてそれぞれに役割があり、神経伝達物質や受容体によって効果が変わる。
- 神経伝達物質の放出を調節する物質である「神経ペプチド」が、神経内に存在している。この中には、脳内麻薬とよばれるβエンドルフィンなども含まれる。
- 神経ペプチドは、神経伝達物質と一緒にシナプス内に貯蔵され、神経が興奮状態に変化した時にシナプスへ放出される。神経ペプチドには、神経ペプチドの受容体があり、これと結合する。脳内には60種類以上の神経ペプチドが存在し、その機能は多機能である。
- 脳内には、麻薬や鎮痛薬の受容体である「オピオイド受容体」が存在している。この受容体に作用する神経ペプチドは、βリポトロピン/αエンドルフィン/βエンドルフィン/γエンドルフィンなどがある。これらの受容体は、脳内に広く分布していて、鎮痛、依存性などに関係している。
- コレシストキニンという神経ペプチドは、ドーパミン作動性神経に存在し、ドーパミン放出に対して抑制的に働く。精神分裂病患者の死後の脳では、側頭葉のコレシストキニンの濃度が低下している。
- ソマトスタチンは、アルツハイマー病の大脳皮質で減少し、ソマトスタチン受容体も減少することから、知能との関連があると考えられている。
- 抗精神病薬のハロペリドールは、前頭葉皮質と海馬のソマトスタチンの感受性を下げる。
- 抗てんかん薬のカルバマゼピンとバルプロ酸は、海馬のソマトスタチン濃度を減少させる。
これらの重要な「伝達」の役目をしている物質が「神経伝達物質」である。
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◇ドーパミンと幻覚状態◇
ドーパミンは、ノルアドレナリンと構造が似ている。
■ドーパミンと幻覚状態■
受容体は、大きく分けるとD1とD2の2つに分けられ、更に細かく5種類に分けられる。
『ドーパミン作動性神経系は、大きく3つに大別される』
- 黒室線条体路は、黒室から基底核の線条体までの部分であり、パーキンソン病との関連がある。
- 中脳辺縁路は、中脳から大脳辺縁系へ神経を送っており、精神分裂病の幻覚状態との関連がある。
- 隆起下垂体路は、視床下部から下垂体へと向かう神経系で、下垂体ホルモンの分泌を調節している。
- 覚せい剤のメタンフェタミンやアンフェタミンは、シナプスからドーパミンやノルアドレナリンの放出を増加させて、機能を促進させる。
- 覚せい剤を使用した場合、意欲の増進や痩せに加えて、幻覚状態が表れる。
- 幻覚状態は、中脳辺縁路のドーパミン機能の亢進によるものとされている。
- 抗精神病薬は、幻覚状態に効果を持っている。
- 精神分裂病の場合、この神経路の機能が亢進している状態と考えられる。
薬物や抗精神病薬が、脳に与える影響は広範囲で大きい。
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◇犯罪者の脳機能障害◇
人間の脳は、食欲/性欲/攻撃欲の中枢が、近い場所に集中している。
■犯罪者の脳機能障害■
- 行動を抑制する側頭葉に損傷がある場合や、大脳新皮質などの機能が、麻薬/酒/精神障害/物理損傷などで低下した場合に、激しく暴力的な犯罪を引き起こす。
- 「良心を全く感じない」という状態は、脳の前頭葉に何らかの損傷や異常がある可能性が非常に高く、ホルモン異常などの可能性も高いと考えられる。
- 「先天的、または後天的なホルモン異常/様々な化学物質の影響/劣悪な生育環境/幼少期の虐待/トラウマ」など、複合的な原因が重なった場合にサイコパスが生まれやすい。
- 80〜90パーセントのサイコパスは、言語能力を司る認知機能に何らかの損傷や異常があり、通常左脳で行われる言語処理が右脳で行われている場合がある。
- 側頭葉に、何らかの損傷や異常がある場合、自分の行動を他人の行動のように感じることがあり、あたかも他人の行動のように語ってしまうことがある。
- 遺伝学者などの研究では、破壊的攻撃行動を起こす人物の場合、脳内のレセプター部位に働きかけるアンドロゲン分泌量と密接な関係があるとされている。
- 男性のアンドロゲンは女性の20倍であり、全世界で起こっている犯罪の約85パーセントを男性が占めている現実との因果関係が指摘されている。
『Serotonin(セロトニン)』
- 感情主体で衝動的な大脳辺縁系を抑制するのは皮質の役割だが、セロトニンが減って両者の交流が妨げられると、人間の行動は感情的/衝動的になる。
- 男性が犯罪を犯しやすいのは、健康で正常な場合でも、セロトニンが平均して女性の50パーセント程度しかないためだとされている。
- 「問題家庭」とは、「肉体的、または精神的虐待/トラウマ/育児放棄」などの問題が、人格を形成する重要な時期に存在した生育環境のことをいう。脳の特徴としては、左側の運動野の機能が弱く、言語/論理的能力が低い。また、正常人に比べて大脳新皮質(中央部)の機能が全体的に低い。
- サイコパスの場合、脳の中央部分にある知覚皮質(感覚情報を受けて解釈する大脳皮質の一部分)が機能しておらず、これは周囲の人々の迷惑を全く考慮せずに振舞うことを指し示している。前頭部の外周部分(前頭前皮質)の活動が通常人に比べて著しく低く、その状態は正常な人の睡眠中の脳に極めて近い。
- 脳に損傷を受けて性格が凶暴になった場合、前頭前皮質の機能低下など複数の異常が明らかになっている。
- 脳の前方が機能していない人は、攻撃的な傾向にある。
- 前頭前皮質に機能不全がある場合、衝動性/自己抑制の欠落/幼児性/異常な感情表現/行動の制御不能の原因となり、攻撃的行動が現れやすい。
- 非行や犯罪などの中で、高い攻撃性を持つ少年の脳を検査した結果、左右非対照であったり、正常な人にはない「のう胞」が確認されたり、様々な障害(早幼児期脳障害、微細脳器質性格変化症候群など)が、見いだされるケースが圧倒的に多い(健常人の50倍)と、研究家や学者が発表している。
『原因として』
- 胎児期か乳幼児時代に、何らかの重大な刺激(外傷や化学物質摂取)を受けている。
- 難産が原因で脳が傷ついたり、高齢出産などによる流産予防のための「黄体ホルモン製剤/甲状腺ホルモン製剤」の投与などが考えられる。
- 「ホルモン製剤」は、微量でも胎児の脳に形成異常をもたらし、強度の男性化(超男性化)を進める。出産、母乳を経してのダイオキシン(母親は自分の体内にあるダイオキシンの半分を子供に伝達する)などの環境ホルモンも影響している。
犯罪者と正常な人の脳を比較すると顕著な違いがある場合が多いが、全く判別不能の場合もある。犯罪者の脳に関する特徴は、現在までに約8割ほどが解明されつつある。
しかし、犯罪の要因は無数に存在しているために非常に複雑な状況にあり、脳そのものを現在よりも更に解明できれば、様々な行為の原因究明に近づけると考えられる。
Status:1998-05-01〜作成
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