研修医宿題
肺動脈閉塞試験
水田 有紀
肺摘除術(片肺全摘術)後は肺血管床の絶対的減少による右心負荷の上昇を伴うため心肺予備力の低下症例では右心不全を合併する危険がある。術後の右心負荷の予測のために一側肺動脈閉塞試験 (Unilateral Pumonary Artery Occulusion test; UPAO test)が有効とされている。
UPAO testは肺摘除術後と同様の肺血管床減少を設定することにより、術後の循環動態因子を推測し、手術適応を決定する試験である。大腿静脈よりカテーテルを挿入し,右心から肺動脈へ挿入しカテーテル先端のバルーンを膨らませて切除予定側の肺動脈を20分間閉塞し,肺動脈圧と心拍出量とを測定する。肺動脈平均圧25mmHgが一側肺全摘術の安全限界、30mmHgが許容限界とされている。
さらに循環動態因子の中でも右心負荷の指標となる全肺血管抵抗係数(Total pulmonary vascular resistance index; TPVRI)は肺切除術の適応を決める際に最も重視される因子のひとつである。
全肺血管抵抗(Total pulmonary vascular resistance)は,右心室から駆出された血液が受ける抵抗であり,以下の式で表される.
全肺血管抵抗(TPR)=肺動脈平均圧(mmHg)/肺血流量(ml/sec) |
mmHgをdyne/cm2で表すには,13.6(Hgの比重)×980(重力)=1332(dyne/sec/cm-5)の計数を乗ずれば良い.肺血流量は,心拍出量(CO)で代用できる.また,対表面積で補正した心係数(C.I.)を用いたものがTPVR index(TPVRI)であるから,
TPVRI(dyne・sec・cm-5・m2)=meanPAP(mmHg)/C.I.(ml/sec)×1332 |
の式に乗っ取ってTPVRIを計算する.
TPVRIが500 dyne・sec・cm-5・m2が安全限界、700 dyne・sec・cm-5・m2は許容限界とされている。
一般的には予測健側一秒量が800ml/体表面積以上あれば、TPVRIは700 dyne・sec・cm-5・m2以下で肺切除可能といわれる。肺換気能上,一般に手術不能と報告されてきた症例(%肺活量50%以下、あるいは一秒率50%以下の症例:図中○印)中にも、本試験により、肺切除許容限界内であり手術可能とされる症例が存在することがわかる(図参照)
その他の因子では肺動脈閉塞後のHR、SpO2、C.I.の変動、自覚症状(呼吸苦)の出現の有無があり、これら諸因子の総合的判断で手術適応を決定する。
UPAO testを行なう適応基準は施設により様々である。以下にUPAO test適応基準の一例を示す。
(1) 右側肺全摘除術症例
(2) 他の心疾患を合併した左側肺全摘除術症例
(3) 肺高血圧の合併があると思われる肺葉切除術症例
より浸襲の少ない肺血流シンチグラムにてUPAO testを省略する施設も多いが、
予測健側一秒量<800ml/体表面積
TPVRI=1120/(健側DLCO)+24.8/Pao2+6.40×年齢)>450 dyne・sec・cm-5・m2
の時は,UPAO testを実施することが勧められている。
最近の症例 対表面積1.48で計算
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|
Control |
5 min |
10 min |
15 min |
Pulse |
|
105 |
103 |
103 |
99 |
APAP |
s
d
m |
183
88
127 |
192
84
119 |
174
78
115 |
183
77
108 |
PAP |
s
d
m |
22
11
16 |
41
17
27 |
35
10
24 |
32
11
21 |
PCWP |
a
v
m |
9
8
7 |
16
12
8 |
13
15
8 |
12
10
9 |
CO(l/min) |
|
6.99 |
12.58 |
7.59 |
7.45 |
CO(ml/sec) |
|
116.5 |
209.7 |
126.5 |
124.2 |
PaCO2 |
|
40.5 |
41.9 |
41.7 |
41.3 |
PaO2 |
|
72.6 |
66.8 |
62 |
76.4 |
TPVRI |
|
270.7 |
253.9 |
374.0 |
333.4 |
参照
1) 喜納五月、有水憲司、橋本良一他:手術適応決定に一側性肺動脈閉塞試験が有用であった4症例.山梨肺癌研究会会誌82-86,16巻2号2003
2)渡邉洋宇、藤村重文、加藤治文:臨床呼吸器外科第2版.医学書院
Feb 25, 2004
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