8.その他の遺言活用法

 「争族」対策とはちょっと違うケースですが、以下のような場合も、遺言を作成しておくことが必要です。

1.相続人がいない場合

 放っておくと遺産はすべて国に帰属してしまいます。遺言により、身近な方や、団体等に遺産を帰属させることが可能です。内縁関係のご夫婦の場合には、他に相続人がおらずかつ内縁の配偶者が特別縁故者に認められれば遺産の相続は可能ですが、非常に手続きが煩雑ですので、遺言を作成しておく必要があります。

2.内縁の配偶者がいる場合

 内縁関係のご夫婦の場合には、亡くなった方に相続人がおらずかつ内縁の配偶者が裁判所に「特別縁故者」として認められれば遺産の相続は可能ですが、非常に手続きが煩雑ですし、あくまでも例外的な取扱いですので、遺言を作成して、確実に遺産を相続できるようにしておく必要があります。

3.相続人以外に財産を残したい場合

 遺産は、遺言がなければ相続人が無条件に取得します。相続人以外の人に財産を残すには、遺言の作成が必須です。

4.相続人が未成年の場合

 未成年者は、大人とは違い、判断能力が未熟であるため、その親が法定代理人になるとされています。そして、法律行為をする際には、親の同意を得て行うか、親に代わりに行ってもらうのが通常です。
 相続人が、配偶者と未成年の子どもである場合、遺産の分割協議にあたっては、親と子どもには利害関係が生じています。この場合にも、親が子どもの代理をして協議を行うとすると、実際には、親がすべてを勝手に決めることができるということになります。本来は問題がないように見えますが、家庭裁判所の立場としては、「それではダメです、親の代わりに子どもを代理する人(特別代理人)を付けて、その特別代理人と親とで協議をして、子どもの権利を守りなさい」というものです。
 そのため、実際の遺産分割協議にあたっても、原則として、未成年者の法定相続分を加味しなければなりません。たとえば5歳の子どもが不動産の持分をもっている状態というのは、普通であればありえない不自然な状況ですが、そういった実態に即しない財産の分け方になる可能性があります。
 このような場合には、遺言書で、配偶者が遺産のすべてを取得すると定めておけば、家庭裁判所での特別代理人の選任手続きなどは不要になり、手続きがスムーズに進みます
 もっとも、お子さんが未成年のご夫婦の場合に、双方が健康であるならば、公正証書遺言まで作成する必要はありません。簡単な自筆証書遺言を作っておくことをお勧めいたします。

5.相続人が高齢の場合

 お子さんがいらっしゃらず、兄弟姉妹が相続人となるケースで、兄弟姉妹に高齢の方がいらっしゃる場合には、仲が良いかどうかに関わらず、遺言を作成しておくことをお勧めいたします。
 例えば、相続人の内の一人が病気等で判断能力が低下してしまいますと、遺産分割にあたっては、その前提として、家庭裁判所で成年後見人の選任申立てを行うことになり、手続きをすすめるのに時間がかかることになってしまいます。
 また、遺産の分け方についても、家庭裁判所が関与することになりますので、未成年者が当事者である場合とどうように、原則として、成年後見人の付いた相続人の相続分に応じた金額は支払う必要があります。

まとめ

 このように、遺言書をつくっておくべきケースは多々あります。
 以上のお話しの結論としては、遺言書はちゃんと作り、相続に備えておきましょう、ということです。家族間での争いで、縁が切れてしまうこともよくあるでしょう。そのような悲しい事態は絶対に避けなければいけません。
ご自身の遺産については、ご自身の意思で、その処分方法を決めておくのです。そうすれば、残された家族間で争いが生じる可能性をグッと減らすことが可能です。
 もっとも、ご家族が故人の意向をしっかりと理解しており、遺言書がなくてもそうしていたのに、というケースもあるでしょう。そのような場合には、遺言書を作っておいた意味はないかもしれませんが、それはむしろ喜ぶべきことです。
 繰り返しになりますが、遺言をつくらずに、火種を残しておくよりも、今、少しだけ行動して、大切なご家族のために、ご自身の相続に備えませんか。


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「争族」対策のすゝめ  コンテンツ


   1.相続の基本

   2.「争族」とは?

   3.数字から見る相続  遺産が少なければ揉めない?

   4.なぜ「争族」になってしまうのか

   5.相続の件数、遺言書の作成件数

   6.遺言書の種類

   7.遺言書 書くべき内容・書くべき場合

   8.その他の遺言活用法

   9.遺言書に加えて